上京して江古田で済ませる所用があるので昼前に家を出た。まさか雨にはなるまいが一向に陽が射しそうもない。「花曇り」と呼ぼうにも「ベルベット・イースター」と呼ぼうにも、今日の空はあまりに陰鬱すぎる。
用事が呆気なく片付いてしまったので、ふと思い立って最寄りの停留所から中野行の路線バスに飛び乗る。哲学堂公園で一旦降りかけて窓外の喧騒にたじろいだ。立錐の余地のない混雑と耳を聾すほどの騒音。人波が公園から歩道まで溢れてしまっている。途中下車を諦め、そのまま車窓からの花見に方針変更。
ここから新井薬師を過ぎて中野サンプラザまでの数キロ、中野通りの桜並木は壮観の一語に尽きる。硝子越しでも充分に堪能。渋滞に巻き込まれながらバスがゆるゆる終点の中野駅に着いたのは一時半前後だったろうか。
そこから中央線で数駅先まで行き、二十分ほど歩いたら馴染の寺の小さな境内に到着。わが密やかな花見スポットに今年も参ることができ幸せだ。ここに足を運び始めて二十三年、一年も欠かさない。いわば新年度の初詣さながらである。
十数本の桜はどれも満開だが、まだ散り始めていない。風はそよとも吹かず、時折はらりと花びらが舞うのは鳥が啄むからだ。辺りは全くの静寂、池に注ぐ水音と鳥が鳴き交わす声がするばかり。空を見上げてふと呟く、ああこれこそ極楽浄土だ、と。