いやはや参った。今日が締切の原稿があるのでそろそろ着手せねば、でもまずは一服…とヴェランダへ出たら右眼に糸屑のようなものが見えてゆらり浮遊している。程なく視界には細かい砂粒のような点々が漂い出した。すわ一大事だ。
五年前にも同じことが左眼に起こった。網膜剥離と診断され、その日のうちに緊急手術を受ける破目になったのである。そのときの悪夢がまざまざと甦ってきた。
もちろん今回も慌てて眼医者に飛んで行った。前回同様、顕微鏡のような機械で眼底を覗き込まれ、強い光を当ててあちこち調べられた。幸い今回は剥離は生じてはおらず、軽症のようだが数日の経過をみてから判断するとのこと。どうやら手術は免れたようで、まずはホッと胸を撫で下ろした。
検査のため瞳孔を開く目薬を点眼されたので、そのあと暫く周囲がぼんやり霞んでしまい、午後は何ひとつできなかった。原稿は一行も書けていない。
弱り目に祟り目とはこのことだ。