予定では原稿書きの続きに専念する筈だったのだが、好天に誘われて上京した。
渋谷駅から猥雑なホテル街をすり抜けてユーロスペースへ。ここで先週末から始まったエリック・ロメール追悼特集上映「
アデュー・ロメール」へ。
これまで見逃していた数本をスクリーンで観ておこうという心積もりである。
O侯爵夫人
Die Marquise von O...
1975年
監督・脚本/エリック・ロメール
原作/ハインリヒ・フォン・クライスト
撮影/ネストール・アルメンドロス
出演/
エディット・クレファー、ブルーノ・ガンツ、エッダ・ザイペル、ペーター・リュール ほか
もっぱら同時代のフランスの青春群像を撮り続けたロメール作品のなかでは異色の時代劇。18世紀末の北イタリアを舞台とするクライストの小説の忠実な映画化、純然たるコスチューム・プレイである。台詞は珍しくドイツ語。
描かれるのはフランス革命直後の貴族生活、云うならばジャック=ルイ・ダヴィッドの画中人物がそのまま動き出すような趣だ。だが違和感は微塵もない。精緻な心理描写、入念な画面設計、冷静沈着ななかに微かな皮肉を交えた人物造形。紛うことなきロメールの映画である。アルメンドロスのキャメラワークの瑞々しくも端正な佇まいに溜息。これは必見の一本であろう。
聖杯伝説
Perceval le Gallois
1978年
監督/エリック・ロメール
原作/クレティアン・ド・トロワ
脚本/クレティアン・ド・トロワ、エリック・ロメール
撮影/ネストール・アルメンドロス
出演/
ファブリス・ルキーニ、アンドレ・デュソリエ、ソランジュ・ブーランジェ ほか
余勢を駆ってもう一本。前々から気になっていた作品なのだが、これは噴飯物と断ずるしかない愚作だった。
アーサー王伝説に基づく12世紀のクレティアン・ド・トロワの韻文をテクストとする。そこまではいいのだが、全編キッチュで安手の書割とハリボテを背景に、古楽もどきの拙劣な音楽を伴奏に、気の抜けたような学芸会めいた茶番劇が二時間半近くも延々と続く。これを観通すのは苦行以外の何物でもない。
ロメールはどこまで本気なのか、おふざけなのか。その演出意図は不明というほかない。ブレヒトの異化効果? まさか。これが水も漏らさぬ綿密な『O侯爵夫人』のすぐあとの作品だというのだから、ロメールという人は謎である。
もしも本作で初めてロメールと出逢ったならば、その映画を二度と顧みることはなかったろう。幸いなことに(多くの愛好家と同様に)デビュー作『獅子座』で彼を知ることができた僥倖につくづく感謝せねばと思った次第。