(承前)
よほどの英国音楽好きでない限り、
ピーター・ウォーロック Peter Warlock の名を耳にしたことはないであろう。かく云う小生も、
フレデリック・ディーリアスの年少の友人にしてその崇拝者、ディーリアスの最初の研究書(1923)を著した人物としてその名を辛うじて記憶していた程度である(今は流石にもう少し知っているが)。
ウォーロックは本名を
フィリップ・ヘゼルタイン(正しくは「ヘスルタイン」と発音する由) Philip Heseltine といい、音楽評論などを執筆する際はこちらの名をもっぱら用いている。上に挙げたディーリアスのモノグラフはしたがってヘゼルタイン名義による著作ということになる。
1894年、というからディーリアスよりも三十年以上あとにロンドンで生まれ、イートン校やオックスフォードで学びながらアマチュアとして作曲にも手を染めた。ケルト文化や16世紀のエリザベス朝音楽、カルロ・ジェズアルドなどに深い関心を寄せる傍ら、ディーリアスやクィルターら同時代の先輩作曲家の静謐なスタイルに共鳴し、自らは主に歌曲と合唱曲を作曲した。抒情的で穏やかな作風である。
素人作曲家ゆえ長大な楽曲はひとつもない。代表作はテノールと室内合奏のための連作歌曲「大杓鷸(ダイシャクシギ) The Curlew」だろうか。寂寞たる哀しみに満ちたイェイツの詩に附曲しものだ。尤もこれすら知る人はごく限られよう。要するに20世紀前半の英国音楽が生んだマイナー・ポエットのひとりに過ぎない。
ほんの数日前、新宿で呑み会の前に中古CD店に立ち寄り、こんなアルバムを手にした。英国でつい昨年出たばかりのディスクである。ウォーロックの稀少なSP録音を集大成したCD二枚組。ピーター・ウォーロック協会の協力による覆刻である由。
"Peter Warlock: Collected 78rpm Recordings"
ウォーロック:
カプリオール組曲*
弦楽のためのセレナード**
カプリオール組曲(抜粋、シゲティ編)***
弦楽のためのセレナード****
カプリオール組曲*****
パーセル(ウォーロック編):
ファンテジー 第三番******
四部のファンタジア 第九番*******
ウォーロック:
「大杓鷸」********
アントニー・バーナード指揮*
ロンドン室内合奏団
1931年3月24日
ジョン・バルビローリ指揮**
NGS室内合奏団
1928年頃
ヴァイオリン/ヨーゼフ・シゲティ、ピアノ/ニキータ・マガロフ***
1936年3月6日
コンスタント・ランバート指揮**** *****
コンスタント・ランバート弦楽合奏団
1937年4月3日
パスキエ三重奏団******
1935年頃
グリラー弦楽四重奏団*******
1947年6月20日
テノール/ルネ・ソームズ********
オーボエ/リオン・グーセンス、イオリアン弦楽四重奏団
1950年3月27日
Divine Art ddh27811 (2009)
本当はこのあとにCDもう一枚分、歌曲と合唱曲が三十五曲(!)も続くのだが、それらは省略させてもらおう。
あった、やっぱり含まれていた。
バルビローリ指揮による「
弦楽のためのセレナード」。三十八年前ディスコグラフィで曲名を目にしただけの幻の録音が21世紀の今こうして初覆刻されたのである。長生きはしてみるものだ。逸る心を抑えてディスクを装置にそおっと忍ばせる。
(まだ書きかけ)