「20世紀の偉大な指揮者たち」というCD二枚組シリーズをご存じだろうか。
文字どおり「世紀の巨匠」たちの遺した録音から選り抜きの名演ばかりを集めたアンソロジー。確か三十集まで出て頓挫したとおぼしい。欲しいものはあらかた手にしているが、ついうっかり買い逃した「第十九集」を先日ようやく新宿で見つけた。
"Great Composers of the 20th Century: Otto Klemperer"
モーツァルト: 交響曲 第三十八番*
シュトラウス: 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」**
ストラヴィンスキー: バレエ組曲『プルチネッラ』***
ワイル: 小三文音楽****
モーツァルト: 交響曲 第二十五番*****
ベートーヴェン: 交響曲 第二番******
ヤナーチェク: シンフォニエッタ*******
オットー・クレンペラー指揮
ベルリンRIAS交響楽団* *****
ケルンWDR放送交響楽団** *******
バイエルン放送交響楽団***
ベルリン国立歌劇場(クロル歌劇場)管弦楽団****
ベルリン放送交響楽団(実況)******
1950年12月22/23日、ベルリン、ダーレム、イェズス=クリストゥス聖堂*
1956年2月27日、
ケルン、WDR、クラウス=フォン=ビスマルク=ザール** *******
1957年9月26日、ミュンヘン、ヘルクレスザール(実況)***
1931年、ベルリン****
1950年12月20日、ベルリン、ダーレム、イェズス=クリストゥス聖堂*****
1958年3月29日、ベルリン高等音楽学校(実況)******
EMI IMG 5 75465 2 (2002)
これまで買い逃していたのには理由がある。どうにも苦手な印象の附き纏う指揮者だからだ。容貌もそうだが音楽がとにかく厳めしく近寄り難い。潤いや安らぎとはおよそ縁のない人物のように思われる。
このアンソロジーはひどく奇妙だ。天邪鬼というか臍曲がりというか、晩年の手兵である倫敦のフィルハーモニア/ニュー・フィルハーモニアとの共演は悉く除外され、ひたすら独逸のオーケストラとの稀少な放送録音(と戦前のSP)から選曲している。
一言で云うならばにこりともしない峻厳な音楽だ。その意味からするとまるで好みでないのだが、その生真面目で直截なアプローチには打たれずにはいられない。とりわけモーツァルト。優雅さや軽やかさは一顧だにされず、骨太な造形のみが直視される。これはまさしく両大戦間に育まれたノイエ・ザッハリヒカイトの美学そのものであり、三歳年下のフリッツ・ライナー、十歳年下のヨーゼフ・ローゼンシュトックにも共通する。晩年の解釈とは異なりテンポがきびきびと思いのほか速いのだが、確かにこれはこれでクレンペラーの真骨頂ともいえる演奏であろう。録音も上乗だ。
(まだ書きかけ)