昨日に引き続き「蕎麦ツアー」。今年はてつきり中止かと思つてゐたら昨夜遅く旧友から連絡が入り、急に執り行ふことになつたのである。
開始は三時からだと云ふので少し早めに出て、有楽町界隈で一時間ほど時間を潰す。三省堂書店で新刊書の棚を眺めてゐたら、吉田秀和さんの新著が目に留まつた。一もニもなく手にしたのだが、奥付には「2010年1月10日」とあるのでレヴューも年が明ける迄は遠慮しよう。
実は面白さうな本はもう一冊あつた。十月に出てゐたらしいが寡聞にして初めて目にする。題名に思ふところがあつてこれも手に取つた。
近藤富枝
荷風と左団次 交情蜜のごとし
河出書房新社
2009
永井荷風と二世市川左団次とが肝胆相照らす仲だつたとは知らなかつた。そもそも荷風と云へば冷笑的で人間嫌ひ、誰にも心を許さぬ男との先入観があるものだから、「交情蜜のごとし」と聞いてなんだか虚を突かれたやうな気がした。本書は大正時代を中心に三十年に及んだ二人の昵懇の間柄を、綿密に丁寧にしかも愛惜たつぷりの筆致で浮き彫りにした好著である。
有楽町の喫茶店で読み始め、帰りの車中で読了。読後感もしみじみと胸に沁みて大晦日に相応しい一冊であつた。
さて今回の「蕎麦ツアー」はいつものやうに千石の駅に参集し、まづ馴染の「
駕籠町藪そば」で同行四名で旧交を温めつつ乾杯。あれやこれやを食したあと盛蕎麦で締め括つた。こゝで一名が所用の為に抜け、残りの三名で腹ごなしに隣町の白山まで徒歩移動。暫く珈琲を飲んだのち新たに一名が合流してニ軒目の「
肴町長寿庵」へ。戦前からの老舗らしいが、店構へも内装も新しい店。酒肴も豊富で、「種子島蜜芋の天麩羅」と云ふ品がとりわけ美味。〆に食した「芹ざる蕎麦」も悪くなかつた。
一年振り、二年振りの邂逅だが、例に拠つて例の如き談論風発。放送局の内幕話やアフリカ音楽を巡る蘊蓄の合間に、大病を患つた体験やら両親の介護の苦労話やらが飛び出すあたりが、五十代後半を迎へた年相応の話題と云へようか。ともあれ出逢つて三十五年になる同士がかうして杯を交はす歓びは何物にも代へ難い。
九時を少し回つた頃合ひで散会。またの再会を約して家路に就いた。