先日 BBC Music Magazine で紹介されていたDVDを取り寄せてみた。英国の作曲家フレデリック・ディーリアスに関するTVドキュメント。1993年の制作だといい、かつてオペラ『村のロミオとジュリエット』がDVD化されたとき特典映像として附録になったことがあるらしい。いずれにせよ小生にとっては初めてだ。
Discovering Delius:
A Portrait of Frederick Delius
Produced & written by Jan Younghusband
Directed & narrated by Derek Bailey
Digital Classics
1993/2009
ゆかりの深い音楽家たちが奏し語るディーリアス、といっても1993年の時点で歿後六十年近い歳月が流れているので、じかに謦咳に触れた者はもう殆どいない。とはいえ、盲いた老作曲家に助手として献身的に仕えたエリック・フェンビーがまだご存命で、遠い日の思い出をいとおしむかのように語るのが何よりも貴重な映像である(フェンビーは1997年に長逝した)。
番組は専ら演奏と同時進行する。チャールズ・マッケラスが「フロリダ組曲」と「高き丘の歌」を指揮し、ジュリアン・ロイド・ウェッバーがチェロ・ソナタを、タズミン・リトルがヴァイオリン協奏曲をそれぞれ奏し、ディーリアスの音楽について思い思いに語る。オペラ映画「村のロミオとジュリエット」に出演したトマス・ハンプトンからも一言。どのコメントも傾聴に値するのはさすが。
とりわけ興味深いのがタズミン嬢の話。パーシー・グレインジャーの手紙にある挿話だそうだが、フロリダ時代ディーリアスには黒人の女性との間に子供がいたらしい。数年後に再訪したとき彼は別れた恋人と子供を躍起になって探したが遂に再会は叶わなかったという。「ディーリアスの音楽にいつも yearning な感情がつき纏うのはそうした体験が影を落としているからだと思う」
ディーリアスという複雑な人物にさまざまな角度から光が当てられていく。アメリカ南部、北欧、イル・ド・フランスとディーリアスゆかりの土地との結びつき、ニーチェの「生の哲学」への深い傾倒が語られ、ハリソン姉妹との交遊から生まれた楽曲が奏でられる。一時間の枠内でよくぞここまで多面的に紹介できたものだ。
すべてのディーリアン必携の映像。ちょっとだけ映るケン・ラッセル監督BBC時代の伝記映画の傑作『夏の歌』をまた観たくて矢も楯もたまらなくなった。