もう半年ほど前になるだろうか、新譜で手に入れたまま何故かこれまで紹介を怠っていたアルバムを。永年愛してやまないラヴェルの最高傑作である。
モーリス・ラヴェル:
歌劇 『子供と魔法』
「マ・メール・ロワ」
子供/マグダレナ・コジェナー
火、王女、夜鶯/アニック・マシス
ママン、中国茶碗、蜻蛉/ナタリー・ステュッツマン
長椅子、牝猫、栗鼠、羊飼/ゾフィー・コッホ
肘掛椅子、樹/ジョゼ・ヴァン・ダム
柱時計、牡猫/フランソワ・ル・ルー
ティー・ポット、小柄な老人(幾何学)、蛙/ジャン=ポール・フーシェクール
女羊飼、蝙蝠、梟/モイカ・エルトマン
ベンチ/ザビーネ・プールマン
ソファー/ノラ・フォン・ビラーベック
スツール/ビアンカ・ライム
麦藁椅子/ジルケ・シュヴァブ
ベルリン放送合唱団
サイモン・ラトル指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2008年9月24~28日、ベルリン、フィルハーモニーザール(実況)
EMI 2 64197 2 (2009)
ラトルは1974年、十九歳でデビュー直後のコンサートにこのチャーミングだが手強いオペラを取り上げ、1987年グラインドボーン歌劇場での上演(舞台美術モーリス・センダック!)が絶賛された経歴をもつ指揮者なので、手兵のベルリン・フィルとこれを録音するのをさぞかし念願していたことだろう。事実、常任指揮者就任間もない定期演奏会(2002年9月)で早くも演奏会形式上演を手掛けているのである。
「このオペラで理想のキャストを揃えるのが容易ぢゃないんだ」とは常々ラトルが口にするところであるが、仏蘭西男声勢(ヴァン・ダム、ル・ルー、フーシェクール)の芸達者ぶりはなるほど指揮者の期待に応えて余りあるものだろう。問題は女声陣にある。愛妻(ではないのかな)コジェナーはクールでボーイッシュな声質こそ「悪ガキ」に似つかわしいものの、フランス語のディクシオンが些か宜しくない。母親役のアルトのもったりと野太い声にも興醒めだ。
う~む、これがラトルの思い描いたドリーム・キャストなのかなあ。
それはともかくオーケストラは流石に目覚ましい巧さだ。数日分の生演奏やリハーサルを編集してあるとはいえ、とても実演とは思えぬ途轍もない高水準。たしかにこれは夢の実現だ。これまで誰がベルリン・フィルの奏する『子供と魔法』を想像できただろうか。ドイツのオーケストラ初の、と言いたいところだが、1970年ライプツィヒ放送交響楽団がヘルベルト・ケーゲル指揮で録音している(しかも独逸語版!)ので、これがたぶん二度目の快挙。実況録音がディスクになったのも、管見の限りでは1963年ローマ収録のペーター・マーク盤以来ではなかろうか。
ついでに、この盤が出るまでは隠れキリシタンよろしく蔭でこっそり愛聴していた怪しげな海賊盤も紹介しちゃおう。
オリヴィエ・メシアン:
神の現前の三つの小典礼
モーリス・ラヴェル:
歌劇 『子供と魔法』
ソプラノ/スーザン・グリトン (=火、王女、夜鶯)
メゾソプラノ/モニカ・バチェッリ (=子供)
テノール/ジャン=ポール・フーシェクール (=ティー・ポット、小柄な老人、蛙)
バリトン/フランソワ・ル・ルー (=柱時計、牡猫)
バス/ローラン・ナウーリ (=肘掛椅子、樹)
アルト/マリエッタ・シンプソン (=ママン、中国茶碗、蜻蛉)
ソプラノ/シンシア・クレアリー (=長椅子、牝猫、栗鼠、羊飼)
ベルリン放送合唱団
サイモン・ラトル指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
2002年9月29日、ベルリン、フィルハーモニーザール(実況)
En Larmes ELS 02-276 (2002)
ベルリン・フィル側の資料によれば、2002年9月の27、29日の両日、たしかにこの曲目で定期演奏会が催されている。歌手の名をそのまま再録しておくと
Susan Gritton, Monica Bacelli, Jean-Paul Fouchécourt, François Le Roux, Laurent Naouri, Marietta Simpson, Cynthia Clarey
残念ながら配役まではわからない。なので上に括弧内に記したのはあくまでも推定。六年後の正規盤と共通する歌い手はル・ルー、フーシェクールのふたりだけだ。
(まだ聴き始め)