うわあ、うへえ、またしても原稿の締切が近づいてきた。
五月中頃のこと、降って湧いたように依頼があった。でも断るなぞできはしない。二年半ほど前に東京都下のある大学の研究室が所蔵するロシア絵本コレクションを調査させていただいたのだが、忙しさにかまけてキチンと事後報告していなかった。その後、怠慢にも目前の瑣事に追いまくられるまま後回しにして今日に至っている。そうした不甲斐なき我が身を思い起こさせるように、研究室の方からじきじきの執筆依頼が舞い込んだのであるから、これはもう書かないわけにはいかない。追って正式な報告書も提出せねばなるまい。
戦前から日本にあるロシア絵本の纏まったコレクションといえば、
吉原治良旧蔵の八十七冊(芦屋市立美術博物館寄託)、
原弘旧蔵の三十九冊(特種製紙株式会社)、
旧蔵者不明の二十六冊(架蔵)、
柳瀬正夢旧蔵の十九冊(東京都現代美術館美術図書室および個人蔵)の存在が夙に知られていて、先年の「幻のロシア絵本 1920-30年代」展に出品され、つぶさに調査もされているのだが、それらとは別にもうひとつ、
六十一冊にも及ぶ大きなコレクションが残されていることが展覧会終了後に判明したのである。
この旧蔵者はおそらく1930年代にリアルタイムでほとんどのロシア絵本を収集したに違いない。多くの絵本が1930年代初頭に刊行されたエディションだし、吉原や原の旧蔵絵本と共通するアイテムも多い。ほとんどが東京のナウカ書店経由で輸入されたものであることは明らか。だが、別ルートのものも数冊ある。刊行年度が早いことからわかる。しかも別人の名が書きこまれている。
重要なのは1943年にその旧蔵者自身がこれらの絵本を高く評価する論考を書き遺しているという事実。このあたりを絡めて、短めの紹介をしたためようというのが今回の執筆の意図である。まあ、とにかく書いてみよう。