(承前)
更に頁が捲られると、いよいよ「わらべ歌」本篇の始まりだ。歌ひとつにつき一頁。どれも一分かそこらの短い歌が全部で七つ。その度に頁が捲られていく。
映しだされるのはお馴染のヨゼフ・ラダの絵本とおんなじタッチ。くっきり輪郭線で囲われた動物と人間が四角い画面のなかでのんびり過ごしている図。塗り絵のように色分けされた画面は鄙びていて、しかも精妙。そうなのだ、ラダの絵はヤナーチェクの音楽とどこか似ていて、両者の相性は抜群なのだ。
絵本の絵は動かない。そのはずなのに、音楽につれて登場人物は歩き出し、寝そべり、川に転げ落ちたり。
七つの歌の題名を挙げておこうか。
1.
春にまさるものはない登場人物: 山羊くん
2.
ラス(犬猫捕り)の息子フランタ、バスを弾く登場人物: フランタ、老いぼれ牝牛
3.
おばばがリラの茂みにもぐる登場人物: おばば、おいら
4.
白い山羊が梨を集め登場人物: 白い山羊、ぶちの山羊
5.
ヴァシェク(チンドン屋)、豚野郎、太鼓叩き登場人物: ヴァシェク、山羊二匹
6.
フランチーク、フランチーク登場人物: フランチーク、女の子
7.
熊さん丸太にのっかって登場人物: 熊さん
どれも素朴にして滑稽、のんびり鄙びたユーモアが漂っていて、なんともいい味わいを醸している。ミニチュア・サイズの小咄ばかりなので、あっと言う間に終わってしまうのが残念だが、これを観ている七分間はまことに至福のひとときである。
ここで聴けるヤナーチェクの音楽は、晩年の1926年に完成した合唱と室内アンサンブルのための組曲「わらべ唄 Řikadla」という。全部で十八の「わらべ唄」に合奏だけの導入部がついた全十九曲からなるこの原曲から導入部と七つの唄を抜粋して、そこにヨゼフ・ラダの絵を付けたのがこのアニメ映画ということになる。
つまりは既存の楽曲を動画化したわけで、その点ではディズニーの『ファンタジア』や『ピーターとおおかみ』、手塚治虫の『展覧会の絵』といった音楽アニメと同類ということになろう。しかしながら、この『わらべ歌』はある一点においてそれらの作品と決定的に性格を異にしている。そして、その一点においてこそ、これはヤナーチェクとラダとの「真正の」コラボレーションたり得ているのである。
(次回につづく)