いやはや絶不調の一日だ。体調不良に加え、原稿執筆がまるで捗らない。半分近く書き進んだところで、まるきり気に入らなくなり、全部を削除した。ああ、今日が締切日だというのに!
こんなことなら昨晩もっと頑張っておけばよかったと今頃になって悔やんだとて後の祭りだ。
そもそも昨晩TVを点けたのが運のつきだった。実にもう面白さの極みで、最後まで見てしまったら三時半。こんなドキュメンタリーだったのだ。
父の音楽~指揮者スウィトナーの人生~
(口上)
▽バイロイト音楽祭で世界的な名声を得、N響の名誉指揮者も務めたオットマール・スウィトナーの音楽家としての人生を振り返る 、彼の息子であるIgor Heitmannが監督したドキュメンタリー。東西ドイツの統一がなされた直後、パーキンソン病による手の震えが原因で、永きに渡る指揮者としてのキャリアを終わらせ引退生活に入ったスウィトナー。
その後彼の生活からは音楽が消えたが、壁の崩壊は、彼の人生に新たなものをもたらした。何年もの間、妻と住む東ベルリンの家と、愛人と彼女との間に生まれた息子とが住む西ベルリンとの2つの家庭を行き来していた彼の人生を大きく変えることとなったのである。このドキュメンタリーは、共産主義と西側社会、プライベートな生活とキャリア、妻と愛人、そしてそのすべてを超越した存在である音楽との間で微妙なバランスを保ってきた偉大な指揮者の人生を、当時のフッテージやインタビューを通して描くと同時に、音楽を通じて父を理解しようとする息子の物語でもある。
~2007年 ドイツ ZDF/Filmkombinat制作~
いやもう凄いのなんのって!
オトマール・スイトナーに愛人と隠し子がいて、ベルリンの壁を往還して会いに通っていたなんて! 妻はそれを知りながらすべてを容認し、いまや老巨匠はそのどちらとも自由に会って、ときに全員で愉しげに食事などしている。よくもここまでプライヴェートな秘密を明るみに出すことを当事者たちが許可したものだ、と思ったら、なんとこのドキュの監督こそはその「隠し子」本人だったのである。
1971年生まれのハイトマン監督は父スイトナーの指揮姿を生で観たことがない。そこで引退して久しい父に懇願する。どうか、一度でいいから僕に父さんの指揮するところを見せて欲しい、と。
こうして引退から十数年ぶりにスイトナーは古巣のベルリン国立歌劇場に赴き、懐かしい団員たちと再会し、息子ひとりのために「自分がいちばん愛してやまない曲」を指揮してみせるのだ…。
ああ、その鍾愛の一曲こそは、モーツァルトの変ホ長調交響曲、言わずと知れた第三十九番なのである。
ここまで来て、小生は涙を禁じえなかった。だって、その曲こそは小生がN響定期でスイトナーの指揮で耳にして、生まれて初めて「モーツァルトって素晴らしい」と開眼させられた曲だからだ。あれは1972年のことだったろうか。