(承前)
沼辺クン、君はなんという奴だ! 僕は裏切られた思いだ!
これがもしも戦場だったら、僕は弾を受けて死んでいる!
文字でこう書くとなんだか大袈裟で芝居がかった物言いみたいだが、中西さんの口調も表情も真剣そのもので、「断じて許せん」という気迫が漲っていた。
考えてみたら当然だ。画家と学者の橋渡しをするはずの編集者が一方的に学者の言い分を鵜呑みにして、苦心して描いた歴史復元画を全否定してしまったのだから中西さんの立つ瀬がない。「裏切られた」というのはそういう意味だ。
そんなつもりはなかったにも拘らず、小生はついつい大学の先生の権威に寄り添って、知らず知らずのうちに中西画伯のプライドを傷つけてしまったのだ。
そのあと小生はどこをどう取り繕い、どう振る舞ったのか。おおかたうろたえてしまって、ただ平謝りに謝ったのだろうが、全く記憶にない。
編集部に戻って顔面蒼白のまま上司のHさんに報告すると、「そうか中西さんがそんなに怒ったか」とちょっと困惑したような表情で苦笑いすると、「つまりは逆鱗に触れたというわけだ。まあ、あんまり気にしなさんな。明日、一緒に謝りに行こうか」と誘って下さった。
翌日、お詫びの菓子折(だったかウィスキーだったか)を持参して、Hさんに連れられて東久留米の中西立太邸を再訪した。
(2月8日につづく)