お蔭さまで(といっても誰のお蔭なのか)しつこい喉風邪も殆ど回復した。
ようやく読書欲も甦ってきた様子なので、東京への往還の車中で、奇妙な人物の伝記を読み始めている。
太田三郎
叛逆の芸術家
世界のボヘミアン=サダキチの生涯
東京美術
1972
いつどこの古書市で購めたのか忘れてしまったが、こんな面白い本が未読のまま書庫に埋もれてしまっていた。数奇な生涯という形容がこれほどしっくりくる人物はまたとあるまい。
これまでのところ本書は Carl Sadakichi Hartmann の、日本語で読めるおそらく唯一の評伝である。
名前は「カール・サダキチ」、苗字は「ハルトマン」という。日本人なのかドイツ人なのか。なんとも奇妙な姓名であるが、それもそのはず、彼は幕末の長崎・出島でドイツ商人の父と、日本女性の母との間に生まれた。生後間もなく母を喪い、そのまま父に連れられてハンブルクで幼少年期を過ごすが、愛情薄い父は間もなく再婚し、サダキチはそのまま叔父夫婦に引き取られて育つ。その後、父の気まぐれな思いつきでアメリカへ移民として送り出される。ときにサダキチ十三歳。こうして世界を股にかけたサダキチ・ハートマン(英語読み)の流浪の生活が始まった。
そんな男の名は聞いたことがない、という方が殆どだろう。永く忘却の彼方にあった人物だから致し方あるまい。ところが英語版ウィキペディアにはちゃんと立項されているではないか。まずはてっとり早く
→ここをざっとお読みいただくに如くはない。
(続きはまた明日)