昨晩、眠れぬままに聴いたヒコックスのエルガーが耳について離れず、思わず書庫まで出向き、続けて傾聴すべきアルバムを探す。あった!
エドワード・エルガー:
「英国精神 The Spirit of England」*
主に帰せよ Give unto the Lord (詩篇第二十九篇)
おお、聞き届け給え O Hearken Thou (奉献唱)
雪
希望と栄光の国
ソプラノ/フェリシティ・ロット*
リチャード・ヒコックス指揮
ロンドン交響合唱団
ノーザン・シンフォニア
1987年10月17、18日、ロンドン、アビー・ロード第一スタジオ
EMI CDM 5 65586 2 (1995)
これもまた天下一品のエルガー。こういう曲を正面切って堂々と聴かせるところにヒコックスの真骨頂があった。なんと滋味に富んだ奥深い音楽であろう。
でもこういった敬虔な気分へと誘う宗教曲を聴くと、今度は思い切り人間的な喜怒哀楽の音楽が聴きたくなる。ずばり、神なき時代の音楽が。
フレデリック・ディーリアス:
「海流(藻塩草/海の彷徨) Sea Drift」
「アパラキア Appalachia」
バリトン/ジョン・シャーリー=クァーク
リチャード・ヒコックス指揮
ロンドン交響合唱団
ロイヤル・フィルハーモニック管弦楽団
1980年4月、ロンドン、キングズウェイ・ホール
London 425 156-2 (1989)
ああ。これこそヒコックスの最高傑作だ、となんの根拠もなく言い切ってしまおう。
ディーリアス自身 "Sea Drift" は会心の作だったらしく、「あれは自分の手からひとりでに生まれてきてしまった」とのちに回想したそうだが、この演奏はまさしくその「ひとりでに生まれ出る」ストレートな情動に満ち溢れていて、その瑞々しさにうたれるのだ。シャーリー=クァークの独唱も、ヒコックスの手兵たる合唱団も、ディーリアスに縁の深いロイヤル・フィルも、揃いも揃って率直に、一途に思いのたけを謳い上げる。なによりヒコックスの紡ぐ音楽が若々しいのである。このとき彼は三十二歳になったばかりだった。