昨日に引き続き、雲間から薄日が差し込む穏やかなインディアン・サマー。在宅して訳稿の校閲のつもりが「そろそろ紅葉が見頃のはず」という家人の一言で、思いがけず行楽の一日と相成る。房総半島を南下してどこかへ、という案もあったのだが、山歩きはちょっと荷が重いので、衆議一決して東京行きの電車に乗り込む。
山手線の駒込駅下車。ちょうど昼時になったので、たまたま目にとまった「やきとり亭」という店でランチ。名古屋コーチンの焼き鳥二本と肉団子、生卵に御飯と赤出汁。なかなかに美味。評判の良い店らしく、程なく満席となった。満ち足りた気分で店を出ると、すぐ近くに
六義園(りくぎえん)の鬱蒼たる木立が長い塀越しに見える。名にし負う柳沢吉保の旧宅跡、東京屈指の紅葉の名所である。
ここに来るのは何年振りだろう。この季節に訪れるのはたぶん初めてである。観光バスが横付けされているのでギョッとしたのだが、園内に入ると人出はさほどではない。いきなり艶やかな紅葉がそこここに目につく。こういうとき植物名に疎いわれわれは言葉に窮する。楓と枝垂れ桜はわかるのだか、あとは名指しできないのが悔しい。リーフレットによれば櫨(はぜ)、欅(けやき)、唐楓(とうかえで)が見頃ということだが、どれがどれやら。あのひときわ鮮やかなのが櫨なのかなあ。
さすがに権勢を誇った吉保の築園というだけのことはある。堂々たる風格を湛えた回遊式の大名庭園、池を巡りながらの眺めがどこをとっても絵になる。石橋から覗き込むと驚くほどよく肥えた錦鯉の群が悠然と泳ぐ。小高い築山(藤代峠というそうな)に登ると、ここはまさしく絶景。園内の紅葉黄葉が一望され、大名になった気分だ。
少し歩き疲れたので、池際の茶屋で抹茶をいただく。ここからの眺めも堪能。
二時過ぎに退出し、少し行くと、珈琲を焙煎する芳香が漂ってきた。「カフェ・クラナッハ」の看板が目に入った。少し早いのだが、ここでまた一服。落ち着いた店構えにふさわしい美味な珈琲を賞味する。
しばらく住宅街を歩いて巣鴨駅前の跨線橋を越えて山手線の外側へ。旧中山道から少し右へ入ると
染井霊園がある。沼辺家の墓所はここにある。曾祖父・愛之輔がロシア正教に帰依したので無宗派の公営墓地の分譲に与ったのだろう(今もここは都営の霊園)。命日(奇しくも小生の誕生日の十月五日)に来られなかったので遅れ馳せの墓参り。ついでにここに葬られている岡倉天心と二葉亭四迷の墓所にもそれぞれ一礼。曾祖父も含め、激動の文明開化期に外国文明との懸橋たらんとした三者三様の人生だったのだ。この霊園にもそこそこ紅葉の木立がある。
三時を過ぎだいぶ日が傾いてきたが、まだ余力と時間がありそうなので、地図を頼りに豊島区と北区の境界に沿って北東方向へ二十分ほど歩くと、またも立派な長塀が見えてきた。北区西ヶ原の
旧古河庭園である。真裏から接近したので、正門を探して塀伝いに延々と坂道を歩く。
(まだ書きかけ)