不思議なことがあるものだ。
少し前、とある県立美術館の学芸員から連絡をいただいた。存じ上げない方だったが、芦屋の美術館からの紹介だという。
なんでも、十年ほど前に歿した版画家の遺品を整理していたら、数多くあるスケッチブックのなかに、戦前のロシア絵本から模写したとおぼしきデッサンが数十葉も含まれていたのだという。そのいくつかについては、先年の『幻のロシア絵本』展カタログで元の絵本を同定できたものの、ほとんどは出典が不明だという。
その版画家は小生でも名前くらいは知っている。戦中戦後の日本版画史にそれなりの位置を占めていた人物である。ただし、左翼でも海外通でもなく、児童書に手を染めたこともないらしい。その彼が(おそらく)第二次大戦中にロシア絵本の模写を手がけていた。しかも半端でない分量である。
送られてきた画像データを眺めながら、ここ数日間というもの四苦八苦。全部というわけにはいかないが、どうにか六冊ほどのロシア絵本を出典として突き止めた。
結果をお知らせしてすっきりした。あとはどんな知られざる事実が判明するか。研究の進展が愉しみである。