小生はほとんど合唱音楽を聴かない人間であるが、バルトークやコダーイ、シマノフスキやマルティヌーといった近代東欧の作曲家たちが自国の(ときには近隣諸国の)民謡に材をとった一連の編曲ものには、ただもう訳もなく心惹かれる。
素朴さと精妙さ、前近代と近代、田舎と都会、(好きな言葉ではないが)「ロウ」と「ハイ」が絶妙な按配で混じり合い、古くて新しい未知の世界が拓けているからだ。
コダーイの合唱曲については少し書いたことがある(
→ここ)。
そのとき日本にもハンガリーの合唱曲を熱心に学び、レパートリーしている合唱団が福島にあることを知り、
この団体のHPを通してコダーイとバルトークの合唱曲を収めたCDを手に入れた。
"Magos a Rutafa ルタの木は高い: ハンガリー ア・カペラのひびき"
バルトーク: 児童と女声のための二十七の合唱曲集 より 十四曲
コダーイ: 児童と女声のための合唱曲集 より 十二曲
ラヨシュ・バールドシュ: 合唱曲 三曲
ガーボル・ウグリン指揮 福島コダーイ合唱団 (指導/降矢美彌子)
1998年録音
東芝 TOCF-56002 (1998)
バルトーク: 児童と女声のための二十七の合唱曲集
ガーボル・ウグリン指揮 福島コダーイ合唱団 (指導/降矢美彌子)
1990、91、93、98、2000年録音
福島コダーイ合唱団 FKC-2001 (2001)
鍾愛の一曲、コダーイ「ジプシーがチーズを食べる」を含む前者も愉しいのだが、バルトークの傑作「二十七の合唱曲集」が抜粋版なのがいかにも惜しまれた。その欠を補うべく、三年後にその全曲を収録した自主制作盤が出た。録音には実に十年もの歳月を費やしており、まさに満を持して世に問うた、という静かな自負が感じられよう。
この素晴らしいCDを折りに触れ愛聴してきたのだが、つい先日たまたま彼らのHPを再訪してみたら、こんな興味深い新譜CDが予告されていたので、早速お願いして送っていただいた。
ハンガリー語の発音の基礎と
ベーラ・バルトーク作曲『児童と女声のための合唱曲集』歌詞の朗読
ハンガリー語の発音と朗読/ガーボル・ウグリン
解説/降矢美彌子
2007年(?)
福島コダーイ合唱団 FKC-2008 (2008)
ハンガリー語の朗読など片言隻句も理解できはしないが、それでもなんだかほんの少しだけバルトークに近づけたような気になる。まあ気のせいだろうが。
Csak azt mondd meg, rózsám,
Mellyik úton mégy el,
Felszántom én azt
Aranyos ekével,
Be is vetem én azt
Szemen szedett gyönggyel,
Be is beronálom
Sürü könnyeimmel.
私の薔薇よ、あなたはどの道を行ってしまうのか、
ただそれだけは言っておくれ。
私はその道を
金の鋤で耕そう。
私はそこに
選り抜きの真珠を蒔いて
とめどない涙でそれを覆いつくそう。
二曲目の「ここに置き去りにしないで!(私を置いて行かないで!) Ne hagyj itt!」はこんな歌詞である。まるでわからない。が、わからぬながら、たいそう純粋で痛切な感情の発露をそこに感じ取ることだけはできる。
いつのことか、マジャール語の詩句を少しは解する日は訪れるのだろうか?