雪が止んで快晴。おまけに今日は立春だ。そのせいなのか、春に備えてヴェランダの整理整頓をするというのに駆り出され、朝っぱらからプランターや植木鉢の土を掻き出し、底に敷き詰めた軽石を選別したりで、埃まみれ、泥まみれになる。
近所のカレー店でたらふく昼食を摂ったあと、腹ごなしの散歩を兼ねて駅前まで歩き、家人に促されてシネマコンプレックスで封切作を観ることに。朝から働いたご褒美ということなのか。
ティム・バートン監督作品
『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』 2007
ジョニー・デップ+へレナ・ボナム=カーター+アラン・リックマン+ジェイミー・キャンベル・バウアー
ミュージカル版の『スウィーニー・トッド』をちょうど一年前に観る機会があり(
→ここ と
→ここ)、その抜群の面白さを思い知らされたので、かなり忠実に原作をたどったというこの映画版にも期待が高まる。監督のティム・バートンも適任というほかない。
ジョニー・デップは最近の出演作をまるで観ていないので論評する資格はないのだが、終始ほとんど感情を表に顕さず、石のような冷徹な無表情を貫き通す演技がまことに素晴らしい。
ラヴェット夫人役のボナム=カーターは二十年前の『眺めのいい部屋』の令嬢とはまるで別人の趣き(まあ当然だが)。舞台で同じ役を演った大竹しのぶのような悪達者な存在感はないが、逞しく生きる肉入りパイ屋のおかみをいかにもそれらしく造型。
昼日中から暗く湿って、ひんやりした石造りの倫敦の感触が実にリアルかつスタイリッシュ。セットとCGの巧みな組み合わせが功を奏している。
ティム・バートン作品なので予想していたとおり、連続殺人場面はかなり派手に血しぶきが飛び散り、家人などはちょっとげんなりした様子。ともあれ、それなりの節度と様式化があって、悪夢の魅惑に彩られた血まみれ。ただし、いささかそれが前面に出すぎて、ミュージカル版に漂っていた「ああ愉しき哉、殺人!」といったブラックユーモア的な味わいが消滅したのが残念。
ミュージカル版にはあった歌のいくつかがカットされていたらしい。悪徳判事がわが身を鞭で苛みながら歌うソングが聴けないのを、家人はしきりに残念がっていた(この部分は宗教上の理由から、実演でもしばしば省かれる由)。
ともあれ、出演者全員が吹替なしに自分の声で唄ったのは天晴れだ。朗々と歌い上げず、淡々と独白調なのも好ましい。サントラ盤を聴いてみたくなった。