今朝もミルクをかけたグラノーラを食した。
この手のシリアル食品は今でこそわれわれの生活にすっかり馴染んでいるが、それもここ十数年のことではないだろうか。少なくとも二十年前にはグラノーラという名前すら知らなかった。今日はそのことを書こう。個人的な事柄なので上手く書けるといいのだが。
1987年の11月初めのある晩。中野武蔵野ホールで映画を観た帰りだったろうか、なぜか中野の街をふらついていて、たまたま入った中古レコード屋でいきなり不意打ちを喰らった。
そのとき店内に流れ出した歌声はたしかに矢野顕子に違いない。ところが聴こえてきた曲は、はっぴいえんどの「風をあつめて」(松本隆・詞/細野晴臣・曲)だったからだ。矢野顕子はそれまでも折りに触れ細野さんの昔の曲を採り上げてきた(「相合傘」「ほうろう」「終りの季節」)。それでもこの「風をあつめて」には心底たじろぎ驚き、しばし周囲の世界を忘れて聴き惚れた。この曲は細野さんのぼそぼそ声~flat voice~と不離不可分と思い込んでいたので、矢野の高い声で唄われるのが衝撃だったのである(なんといっても、これは男の子の歌ですからね)。
思わず店員に尋ねた。「これ、ヤノアキコですよね、なんというアルバムですか?」
すると、「ああ、これ。カセットだよ。新作アルバムのプロモ用にレコード会社から届いたばかりの試聴テープをかけてみたんだ」との答えが返ってきた。
それが彼女の十二枚目のアルバム『GRANOLA』だったのである。
翌日の昼休み、神保町のレコード店、ササキレコードに出向いて、さっそく予約注文した。当時この街を根城にして働いていた小生は、中古盤も新譜も豊富なこの店と懇意にしていたし、いつだったかここで細野さんの「恋は桃色」のシングル盤を発掘したこともあった。店主夫人はいつものようににこやかに応対し、「私も今度のアルバムが楽しみだわ。発売は11月21日ですからね」と念を押すように言った。
ところがその当日、待望の新作『GRANOLA』は小生の手許に届かなかったのである。
(11月6日につづく)