(承前)
クロード・ドビュッシーは末期癌の苦しい輾転反側の末、1918年3月25日に息を引き取った。まだ五十五歳という働き盛り、余りにも早過ぎた。
肥大と混沌の果てに飽和状態に陥った19世紀末の音楽に清新な息吹をもたらし、新時代の行方を明確に指し示したドビュッシーは、マティスやヴァレリーやプルーストとともに真に20世紀の芸術家と呼ぶべき最初の人物であった。
遠からずこの日が来ることを誰しも予知していたとはいえ、彼の死は世界の音楽界に計り知れない悲しみと動揺をもたらした。ドビュッシーの不在という現実を受け止めかねたのである。
当初の衝撃がようやく収まり、ドビュッシーの生涯と業績を人々が冷静に物語るには少々時間が必要だったとおぼしい。フランスを代表する音楽評論誌『ルヴュ・ミュジカル』が「ドビュッシー特集号 Numéro spécial consacré à Debussy」を刊行したのは、その死から二年半以上も経過した1920年12月のことである。寄稿者はアンドレ・シュアレス、アルフレッド・コルトー、エミール・ヴュイエルモーズ、デジレ=エミール・アンゲルブレシュトら、いずれも故人の謦咳に親しく接し、その仕事を知悉した友人たちであった。
実を言えば、昨日ここで紹介した曲集「ドビュッシーの墓=クロード・ドビュッシーのトンボー」とは、この『ルヴュ・ミュジカル』特集号の別冊附録として世に出たのである。企画者は同誌の編集長アンリ・プリュニエール。十人の作曲家に新作を依頼し、三十二頁の楽譜にまとめ上げるのは容易な仕事ではなかったろう。察するに、その編纂作業に手間取ったことが、特集号の刊行がかくも遅れたことの理由のひとつだったのではないか。
古式床しいこの「トンボー」の企てに参加した作曲家とその曲名を改めて記す。
1. Paul Dukas: La plainte, au loin, du faune...
2. Albert Roussel: L'Accueil des Muses
3. Gian Francesco Malipiero: Hommage
4. Eugene Goossens: ......
5. Béla Bartók: ......
6. Florent Schmitt: Et Pan, au fond des blés lunaires, s'accouda
7. Igor Stravinsky: Fragment des Symphonies pour instruments à vent à la mémoire de Claude Achille Debussy
8. Maurice Ravel: Duo pour violine et violoncelle
9. Manuel de Falla: Homenaja (pour guitare}
10. Erik Satie: Que me font ses vallon...
お気づきだろうか。この顔ぶれは練りに練られ、熟慮を重ねた結果なのだ。
十人のうち、フランス人はちょうど半数の五人。デュカ、ルーセル、フローラン・シュミット、ラヴェル、サティという人選はまず異論のないところだろう。残りの五人がそれぞれイタリア、イギリス、ハンガリー、ロシア、スペインからひとりずつ選ばれているのも偶然ではあるまい。ドビュッシーの影響が自国のみならず広く全欧に及んだ事実の証でもあろう。企画者の優れた見識がうかがわれる。
(明後日につづく)