今日は前々から楽しみにしていた日。家人とともに電車を乗り継いで早稲田へ。
家人はここの大学の出身なのだそうで、ずいぶん変わってしまったとはいえ、この界隈やキャンパスがいかにも懐かしそう。表情が和んでいるのがわかる。
かなり早く着いたので、演劇博物館で展覧会「演劇人 坪内逍遙」を拝見。本家本元とあって、さすがにここの逍遙関係資料は凄い。遺品の一切合財が演博の所蔵となっており、文字どおり断簡零墨までが収められている。とても一度では観尽くせないので、今日はささっと下見しよう。
みどころはそれこそ無限にあるが、必見は逍遙の舞踊劇『長生新浦島』(1922)関連の展示だろう。これは日本の新舞踊の草分けとして重要な『新曲浦島』(1904刊)の改訂版とのことだが、その大阪新町演舞場での上演(1922年3月)の衣裳が綺麗な形で残されているのである。和風ながら一見してバレエの衣裳と見紛うばかりのデザインと配色に驚かされる。すべて久保田金遷の手になるものというが、それらのための衣裳画も展示されており、レオン・バクストの影響の色濃いことをうかがわせる。よく残っていたなあ。さすが演博だなあと感嘆した。
そのほか、文藝協会、シェイクスピア関連の展示は勿論だが、逍遙が後半生に打ち込んだページェント劇と児童劇関連のさまざまな遺品、中国からの留学生たちが結成した「春柳社」の演劇活動など、興味深いコーナーがあちこちにあって、丹念に観ていくと半日は過ごせそうだ。
未年生まれの逍遙の羊好きはつとに名高いが、その彼の「羊グッズ・コレクション」や新聞雑誌から切り抜いた「羊関連貼込帖」など、思わず笑ってしまうような品々もあって愉しい。
到底観きれないと観念して三十分ほどで退出、学食で腹拵えしていたらちょうど正午になったので、いそいそと大隈講堂へ。
ここで「新しい文化学の構築にむけて」と題された講演会・シンポジウムがあるのだ。やけに大上段に振りかぶったタイトルだが、われわれの関心はひとえにドナルド・キーンの謦咳に触れることにある。
ドナルド・キーンについては家人のほうがずっと詳しい。エッセイ集もほとんど読んでいるはずだ。何でも数年前に千葉市美術館でたまたま接近遭遇したこともあるという。小生はもっぱら彼の二冊ある音楽エッセイの愛読者だったが、近著の自叙伝『私と20世紀のクロニクル』(
→ここ)を読んで大いに感銘を受けた新参者である。
今日のキーンさんの演題は「日本文学と世界」。
日本が海外と接触し、日本文学が他国に紹介される歴史を数百年にわたって辿る壮大な物語であるが、やはりキーンさん自身にまつわる体験談の面白さが出色。全くの偶然からウェイリー訳の『源氏物語』と出会い、生涯の師・角田柳作の許で日本の古典文学に開眼、念願の日本留学で思いがけず現代文学を知り、多くの書き手たちと交遊する。概ね彼の自伝的エッセイですでに読んだ内容ではあるが、こうして肉声でじかに聴く愉しさはまた格別なのだ。
(まだ書きかけ)