Summertime,
And the livin' is easy
Fish are jumpin'
And the cotton is high
Your daddy's rich
And your mamma's good lookin'
So hush little baby
Don't you cry
言わずと知れた「サマータイム」の冒頭の一節である。夏を謡った歌、夏をしのぐための音楽、夏の夕に口ずさむ子守唄、といえば、真っ先にこれを挙げねばなるまい。八月も最終日になって、ようやくこの名曲のことを思い出した次第。あまりの暑さに、よほど頭がぼうっとしていたに違いない。
石川セリで始まった今年の夏をガーシュウィンで締め括るのも悪くはあるまい。
若い頃、ガーシュウィンの音楽がどうしても好きになれなかった。名のみ高い「ラプソディ・イン・ブルー」や「パリのアメリカ人」など、品のないオーケストレーションに辟易し、どこが良いんだかサッパリわからない、つくづく陳腐でチープな楽曲だなあ、と思うばかりであった。
ところが、である。
大学を辞めて東京・阿佐ヶ谷で暮らし始めた頃、隣町の荻窪のライヴスポット「ロフト」で、夜な夜な暇つぶしをしていた。ほとんど仕事らしい仕事にも就かず、ポケットに銭はなく、その代わり時間だけはたっぷりあった。1975年か76年のことだ。
深夜なので、ショータイムはとっくに終わり、もっぱら誰かのリクエストによるLPレコードの演奏が延々とスピーカーから流れていた。大概は英米のロック、たまにジャズ・ヴォーカルが混じっていたと記憶する。ウィスキーの水割りをちびちび呑みながら煙草をくゆらせ、明け方の閉店時まで所在なく過ごす。腹が減ったら焼きうどんを注文する。
地を這うようなエレキギターのイントロが微かに聴こえてくる。低く、静かに、ブルージーなフレーズを執拗に繰り返す。いったい何が始まるというのか。禍々しい予兆に満ちた、ただならぬ雰囲気があたりに漂い出す。
(明日につづく)