ただもう訳もなくバッハが聴きたくなるときがあるものだ。倦み疲れていて、心にわだかまりがある。そんなとき、ふっと舞い降りてきて、さりげなく慰撫してくれる。天上の音楽のようでいながら、人肌の懐かしさや優しさに満ちている。サマークリスマスにバッハとはおかしな取り合わせだろうか。別棟の書庫を片づけたら、ほうぼうから半ば忘れていたバッハのCDが出てきたので片っ端からかけてみる。演奏の良し悪しはまるで気にならなくて、ひたすら音楽にのみ心を奪われ聴き惚れていた。
二台の鍵盤楽器のための協奏曲 ハ短調 BWV1062
二台の鍵盤楽器のための協奏曲 ハ長調 BWV1061
三台の鍵盤楽器のための協奏曲 ニ短調 BWV1063
二台の鍵盤楽器のための協奏曲 ハ短調 BWV1060
ギューアー・ペキネル&シューアー・ペキネル=ピアノ
ハワード・グリフィス指揮 チューリヒ室内管弦楽団
(2003録音、チューリヒ)
Warner Classics 2564 61950-2 (2004)
◆いかにも芸能人っぽい印象の双子デュオ、ペキネル姉妹だが、どうしてどうして、実に清冽なバッハではないか。軽やかに宙を疾駆するような速度感が好もしい。
ゴルトベルク変奏曲
ブルーノ・カニーノ=ピアノ (1993録音、ルガーノ)
Ermitage ERM 412-2 (1996)
◆長く伴奏者としての名声に甘んじたカニーノだが、今やイタリアを代表する長老ピアニスト。グールドほど奇矯でも個性的でもないが、随所に閃きのあるバッハ。
トッカータとフーガ ニ短調 BWV565 (フリードマン編)
パストラーレ ヘ長調 BWV590 (リパッティ編)
ブーレ~パルティータ 第1番 BWV1002 (フリードマン編)
羊は安らかに草を喰む~カンタータ 第208番 (フリードマン編)
朝の歌~シューブラー・コラール集 BWV645 (フリードマン編)
わが心は忠実なり~カンタータ 第68番 (フリードマン編)
ブランデンブルク協奏曲 第3番 より 第一楽章 (フリードマン編)
シチリアーナ~フルート・ソナタ BWV1048 (フリードマン編)
ロンド風ガヴォット~無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第3番 (フリードマン編)
目覚めよと呼ぶ声ありて~シューブラー・コラール集 BWV645 (フリードマン編)
いざ来れり優しき救い主~ライプツィヒ手稿 BWV659a (フリードマン編)
オルガン・ソナタ 第6番 BWV530 (バルトーク編)
ペトロネル・マラン=ピアノ (2001録音、ニカシオ)
Hänssler CD 98.424 (2003)
◆バッハとあらばなんでもピアノ用に編曲してしまった前世紀前半の遺物集。とことん大仰で時代がかってはいるが、これもバッハの今ひとつの顕現なのかも。
無伴奏ヴィオラ組曲 (全六曲) BWV1007-12
今井信子=ヴィオラ (1997、99録音、ラ・ショー・ド・フォン)
Philips PHCP 11185/86 (1999)
◆オクターヴ上で奏される無伴奏チェロ組曲。昨日たまたま店頭で見つけ、聴き始めたらもう、やめられない。伸びやかに軽やかに歌い、しかも恐ろしく深いバッハ。