一昨日は新宿で、そして今日は吉祥寺で中古CD漁りをした。暑さしのぎに音楽が欲しくなって、というのが一応の言い訳である。その収穫のなかで、めぼしいものをいくつか書き留めておこう。
バッハ: ゴルトベルク変奏曲
ヨージェフ・エトヴェシュ=ギター (1997録音、ブラティスラヴァ)
EJ 01WZ (自主製作盤)
◆ハンガリーの名手エトヴェシュ(エートヴェシュ József Eötvös)が自ら編曲したギター版「ゴルトベルク」。たしか宮澤淳一さんが絶賛していたという記憶があり、試みに聴いてみたら、真正面からバッハに取り組んだ揺るぎない演奏で、実に素晴らしい。これからも繰り返し聴くことになろう。
バッハ: パルティータ 第1番、イギリス組曲 第2番、フランス組曲 第3番
吉野直子=ハープ (1991録音、水戸芸術館)
Sony SRCR 8824 (1992)
◆今度はハープによるバッハ。吉野さんほどの名手をもってしても、さすがに音響的な限界は否めず、鍵盤楽器で弾く原曲に較べてスケールに乏しく、小奇麗にまとまりがちだ…と思っていたら、途中からそんなことを忘れて、至純な音楽に聴き惚れた。どんな楽器で奏してもバッハはやはりバッハだ。
ハイドン: 交響曲 第45、94、95、100、102、104番
ルドルフ・バルシャイ指揮 モスクワ室内管弦楽団 (1967、73、74録音、モスクワ)Venetsiya CDVE 04266 (2007)
◆西側へ亡命するまでがバルシャイの絶頂期だったことを証す、強靭にして雄弁なハイドン。モーツァルトの名手として夙に名高いが、彼の本領はハイドンにあったかもしれない。いずれもLP時代に聴いた憶えがなく、今回のCD化によってようやく真価が明らかになった。バルシャイ恐るべし。
ラヴェル: 優雅で感傷的な円舞曲、フォーレ: 組曲「ペレアスとメリザンド」
ベルリオーズ:「ファウストの劫罰」より 鬼火のメヌエット、妖精の踊り、ラコッツィ行進曲
シャルル・ミュンシュ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 (1963録音、フィラデルフィア)
Sony CSCR 8459 (1991)
◆ボストン交響楽団の常任を辞し、パリ管弦楽団を托されるまでの数年、フリーの立場で米英仏独蘭洪日に客演したミュンシュ。この時期、彼が生涯でただ一度フィラデルフィアと録音した稀代の名演がこれ。LP時代、何度聴いたことか。フォーレの「ペレアス」がかくも痛切に奏された例があろうか。
グリエール: 交響曲 第3番「イリヤ・ムローメツ」(ストコフスキ短縮版)
レフラー:「異教の詩」*
レオポルド・ストコフスキ指揮 ヒューストン交響楽団、ストコフスキ交響楽団*
EMI MATRIX 4 (1994)
◆ストコフスキの十八番「イリヤ・ムローメツ」のステレオ再録盤(1957)。絢爛たるロシア国民楽派の末流に属する俗悪音楽を、悪魔的手腕で夢幻的な高みへと昇華させた。およそ夏向きでない暑苦しい音楽だが、かのジョゼフ・コーネルが愛した演奏であるがゆえに入手。涼しくなったら聴こう。