体に火がつきそうな猛暑なのだから、じっと部屋に篭っていればいいものを、今日は白金くんだりまでわざわざ外出。
先週、「古書 日月堂」店主の佐藤真砂さんと庭園美術館で展覧会「舞台芸術の世界 ディアギレフのロシアバレエと舞台デザイン」(ふう、長い名前で息が切れる!)を一緒に観る約束をしたのだ。多忙を極める彼女は今日だったら時間がとれるというので、汗だくになって白金駅からてくてく歩く。五、六分の距離がえらく遠く感じる。
正門脇のカフェで小一時間ほど体を休めてから、おもむろに美術館へ。佐藤さんは初めてなので、バレエ・リュスのオリジナル衣裳(正確にはマリインスキー劇場上演用の衣裳)をじっくり、ゆっくり眺める。手のこんだ刺繍や大胆な色の取り合わせに二嘆三嘆。
ベヌアとバクストの衣裳画・舞台画には何度観ても溜息がでる。ゴンチャローワの「金鶏」の舞台デザインの絢爛豪華にも圧倒される。この舞台を1914年の倫敦で実見した大田黒元雄の驚きはいかばかりだったろうか。
階段で二階に上がったあたりから、この展覧会は失速しだす。否、ここからが見応えのある面白い部分のはずなのだが、作品の取捨選択の悪さ、セクション分けの拙さ、個々の展示物についての説明不足などが重なって、「何がなんだかわからない」カオス状態を呈してしまう。佐藤さんも「これじゃあサッパリわからない」「この衣裳画はここに置いたら場違い」と不満げだ。ディアギレフとほとんど接点をもたず、半ば忘れられたこれらのロシア人たちを再検証・再評価するのが本展の大きな役割だったろうに、それがほとんど果たせていない。なんとも残念なことだ。
二時間ほどかけて丹念に観たあと、また正門脇のカフェに戻って雑談の続きに花を咲かせる。
昨今の美術界、古本業界の内輪話が次々に繰り出され、時間の経つのを忘れる面白さだったのだが、ここではちょっと書けないような話題ばかりだったなあ。
佐藤さんからは、小生のバレエ史の勉強が途絶えている怠慢を鋭く指摘される。連載の場を提供するから、せっせと執筆するよう叱咤激励される。まこと、懦夫をして起たしむる有り難い励ましに、頑張ってみようかという気になる。
気がつくと、あたりはとっぷり暮れて、さすがに暑さも少し和らいだ。またもと来た道を白金駅まで戻って、そこで佐藤さんと別れた。帰りの地下鉄でもJRでも浴衣姿の若い女性がやたら目についた。どこかで花火大会でもあるのだろうか。