先日たて続けにコクトー=プーランクの一人オペラ『人間の声 La Voix humaine』を聴いた。いかに鍾愛の曲とはいえ、十数枚のCDを続けざまに耳にしたら、これはいくらなんでも少々食傷した。当分このオペラはご勘弁願いたい。
そこで今度は趣向を変えてちょっと原作の芝居を聴いてみた。まずはCDになっているシモーヌ・シニョレの独演盤。たしかこれはシニョレが自分のアパルトマンで収録したと伝えられる録音で、大芝居めいたところのない、さり気ないつぶやきと独白がかえって生々しい好演だった。
そのあと、初演者で往年の大女優ベルト・ボヴィが晩年にいれた全篇の録音も聴く。コクトーの詩的な閃きを感じ取るには今なお最上の演技かもしれない。これまた大仰さとは無縁だ。
試みに米amazon で検索してみたら、こんな珍しいDVDがマーケットプレイスに出ていた。
Ingrid Bergman in Jean Cocteau's
The Human Voice
Directed by Ted Kotcheff
English translation by Carl Wildman
Adapted for television by Clive Exton
Produced by David Susskind & Lars Schmidt
Telecast in 1966
Kultur D2611
一昨日ミネソタから届いたのでさっそく視聴してみた。TV放映用のスタジオ収録、クリアで安定したカラー画像だ。
バーグマンは五十代初めといったところだろうか。もちろんそれなりに美しいのだが、銀幕時代には較ぶべくもない。ちょっと中年女の悪あがきめいて、原作者コクトーはきっと嫌うだろうなあ。
それにしてもバーグマンって救いようのない大根女優だなあ。しかも本人はいっぱしの演技派と思い込んでいるから始末が悪い(さもなくば一人芝居になぞ挑戦しない)。英語のディクションが冴えないのは仕方ないとして、小賢しい芝居に終始し、女優らしい佇まい、気品というかディグニティに乏しい。何よりも、役づくりにゆとりがないのが致命的。観ているこちらが居たたまれなくなる。
それでは一体全体、誰の芝居でこれを観てみたいか。う~ん、これは難問ですね。さりげなく、みじめでもなく、絶叫も大芝居もなしに、愛を失った孤独な女をまざまざと実感させる。そんな女優が現実にいるのだろうか。