昨夜は早々と寝てしまい、そのせいか五時前に目が醒めた。
台風の余波なのか、風が少しあるが、空は気持ちよく晴れている。そうだ、今日こそと思い立って、ショルダーバッグにウォークマンを放り込んで家を出る。自転車に飛び乗り、ペダルを漕ぎ出す。早速スウィッチをオン。音楽は勿論、石川セリのアルバム『パセリと野の花』だ。ただし二曲目からかける。先日ここで紹介した新編集盤がそもそもそうなっているのだ。
ニ、三曲聴いたところで海辺に到着。さすがに潮風がずいぶん強い。倒れないように土手の脇に自転車を止め、波打ち際まで歩く。思っていたより波が高い。早起きのウィンドサーファーがもう数人出ている。彼らには絶好の日和なのだろう。
砂浜に腰を下ろし、そのままイヤフォーンの音楽を聴きながら、煙草に火を点ける。頬に砂粒が当たり、ときおり水飛沫が振りかかる。背後では朝日が昇り始め、中空には明け残りの月がほの白く浮かぶ。頭上すぐのあたりをカモメの群が行き交う。
このCDはオリジナルのLPとは違い、冒頭の「八月の濡れた砂」をあえて末尾にもってきている。イントロが始まるなり、もう胸がいっぱいになる。眼前に打ち寄せる波と吹きつける潮風と、あまりにも合致した音楽であることに、今更のように心うたれる。映画のなかにもバイクで早朝の浜辺を走る場面があったっけ。ここは湘南海岸でなく、千葉の埋立地の人工海浜だが、波と空と吹く風は本物なのだから、まあそんなに違いはないはずだ。
「八月の濡れた砂」が終わると、そのまますぐ「遠い海の記憶」へ、そしてさらに「海は女の涙」へと続くという曲順がまことに絶妙だ。潮騒がそのまま音楽に昇華したような三曲を朝の浜辺で聴く。これこそ至福のひとときと言わずしてなんと言おう。涙が出るほど感動した。セリは紛うことなき「海の女」だなあ。
気がついたら太陽がすでに木立の上に姿を現し、ギラギラ照りつけだす。再び自転車に跨り、次の曲「フワフワ・WOW・WOW」を聴きながら、幸福な気持ちで家路についた。今日も暑くなりそうだ。