ふう、たった今、原稿書きが終わった。
昨夕はあのあと一時間ほどで半分まで書けたので、これはいけそうだ、と安心して、夕飯を食べ、風呂に入って、さあこれから、というところでTVに釘付けになってしまった。「ETVスペシャル」で吉田秀和さんの九十三歳の日常を紹介していたのだ。「言葉で奏でる音楽──吉田秀和の軌跡」という番組だ。
吉田さんが小林秀雄の音楽論について、「でも小林さんの文章にはカデンツァがない。カデンツァとはつまり、句読点のこと。文章に飛躍があって、問題を提起したまま、どこかへ飛んで行っちゃう」と評したり、グレン・グールドのバッハを、「まるで新しい抒情性があった。あんなに新鮮なバッハ、そうそうあるはずがない」と語ったり、知られざる音楽家を発見する歓びについては、「たくさんの魚のなかから一匹を見つけ出す仕事。誰も知らないものを見つけること、それは愉しいよ」。
愛妻バルバラさんに先立たれ、どんな音楽も受けつけなくなったとき、「でもバッハだけは聴いた。バッハは(自分の気持ちを)邪魔しなかったなあ」。相変わらず矍鑠として、明晰にスタイリッシュにしゃべり、鎌倉の街中や海辺を颯爽と歩く。凄いなあ。
そんな姿に見惚れていて、原稿がお留守になった。これではならじと、十二時過ぎから頑張って続きを書いた。ユージン・スミスの『楽園への歩み The Walk to Paradise Garden』という名高い写真についての文章だ。これがフレデリック・ディーリアスの同題の楽曲とどう関係しているか、というところがオチになる。
巧く書けたかどうかはまだわからないが、ともかく終わった。