いささか疲れが溜まっているが、素晴らしい晴天に誘われるように外出。
銀座でちょっと用事を済ませてから青山へ。移動に手間取って午後一時の待ち合わせ時刻に遅れてしまう。お待たせしてしまった太田丈太郎さんにお詫びしつつ、近くの喫茶店へ。
はるばる九州から上京された太田さんは気鋭のロシア文学者。ご専門はアンドレイ・ベールイというから、わが畏友・鴻野わか菜さんと同じ。面識もおありとのことだ。太田さんはきわめて視野の広い研究者で、作曲家アレクサンドル・チェレプニンの来日や、1928年の歌舞伎訪ソにも旺盛な関心を寄せておられる。その左団次一座のモスクワ、レニングラード興行に関して第一級の史料が現れ、研究に際立った進展がありそうとのこと。その話を興味深くうかがう。近いうちに探索の成果が発表されるだろうが、おおいに楽しみなことだ。
小生はもっぱら聞き役だったわけだが、昨年たまたまこの歌舞伎興行のロシア語パンフを三種入手しているので、それらをお目にかけた。いずれこれらも彼の研究に役立てていただこう。
三時から「来日ロシア人研究会」。第二次大戦後の日本人捕虜のシベリア抑留、明治期に長崎に滞在したロシア海軍軍人の「日本人妻」=らしゃめん(洋妾)という、きわめて扱いの難しいテーマについての発表を拝聴するが、いずれも全く納得できない論旨で、聞いていて大いに苛立つ。問題の複雑さ、デリケートさに比して、論者の問題意識があまりに希薄すぎるのだ。次に登場した有泉和子氏(政治外交史)が力説された厳格細心な史料批判の重要性に鑑みても、先の二人の方法は浅薄・軽率の誹りを免れ得まい。まあ、これは以って他山の石とすべきだろうが。
帰り道が一緒だった宮本立江さんを誘って、「蔦」という珈琲店へ。美味しくて、居心地のよい、都心の隠れ家のごとき店だ。小生が美術館の受付嬢から「六十五歳以上」に見られた、という話(
→ここ)で大いに楽しまれたとのこと。言われた当人はけっこう傷ついているんですけど…。
帰宅後はもう何も考えたくない。銀座で買い購めたモニック・ド・ブリュショルリのCDを聴く。モーツァルトのピアノ協奏曲第20&23番。あまりの素晴らしさにしばし言葉を失う。
さあ、今夜はこのあと寝床でエルガーの歌曲集「海の絵」を聴こう。今日は作曲家の150回目の誕生日だったのだ。