神保町の古書会館で始まった「アンダーグラウンド・ブック・カフェ」を覗くが、食指が動くものがまるでない。この催しはこれで九回目というが、小生とはよほど相性が悪いのか、いつ来ても「何かありそうで何もない」失望ばかり味わわされる。
でもせっかく足を運んだのだから、と、日月堂の棚から『ロシア大歌劇筋書』(帝国劇場、1927)と、ハリ・フラナガン著・北村喜八訳 『現代の欧洲演劇』(日日書房、1931)を引き抜く。これで今日はよしとしよう。
折角の日曜の収穫がこれきりではちょっと悲しいので、いったん帰宅したのち家人を誘って地元の映画館へ。
ようやくイニャリトゥ監督の『バベル』を観る。一日一回きりの上映とて、ほぼ満席に近い。混んだ映画館はずいぶん久しぶりだ。今世紀になって初めてかも。
すでにいろいろと評判を聞かされてはいたが、モロッコ、メキシコ、東京というまるで異なった土地の四つの物語を破綻なく撚り合わせていく手腕に感心する。予断を許さぬストーリー展開に引き込まれるとともに、あちこちに散りばめられた繊細な細部にも見惚れる。とりわけメキシコの鄙びた結婚式の描写が秀逸。
この監督のこれが長篇第三作だという。これまでの二作もぜひ観てみたい。
二時間二十分があっと言う間に過ぎ去った。さすがに疲れはしたが、徒労感とは違う。結末にはかすかな安堵感が漂い、カタルシスを体験した。諍いや相互不信を執拗に描きながら、映画の根底に人間への信頼があるからだろう。