昨日は夕方、知人たちと千鳥ヶ淵を歩いた。どこもかしこも満開の眺め。堀の水面も花びらでピンクに染まって、ちょっと現実とは思えない心持ちになる。
寒いのでトリスのポケット壜を片手に歩いたのだが、ウィスキーではなく、花に酔わされてクラクラしてしまう。
昨夜の後遺症で今朝はさすがに頭が痛い。
小雨のなかを池袋から自由学園明日館まで歩く。ここの前庭の桜もちょうど散りかけの風情が美しい。
11時、館内で宮本立江さんと落ち合って珈琲を飲みながら四方山話。マルシャークの「森は生きている(十二か月)」について調査されているとのことなので、持参した1946年の初版本(マルシャーク署名入り)をお貸しする。
しばらくすると雨も上がったので、この界隈を案内していただく。宮本さんは少女時代をずっとこのあたりで過ごされたそうで、「ここは坪田譲治の旧宅ですよ。びわの実文庫(私設図書室)に何度も通いました」「この建物は宮崎滔天と白蓮夫妻が暮らした家」「ここを入ったところに宮本百合子の住まいがあったはず」…と巧みなガイドぶりを発揮。
西武池袋線のすぐ脇に、「目白庭園」という見事な日本庭園があるのも、初めて教えられた。池のほとりに「赤鳥庵(せきちょうあん)」という数奇屋造の建物がある。ここが鈴木三重吉の『赤い鳥』の発祥の地であるのに因んだ命名なのだそうだ。冷たい一陣の風が吹いて、雨上がりの景色がしっとりと美しい。
池袋・目白・椎名町に囲まれたこの一郭を一度じっくり歩きたいと思っていたので、今日は素晴らしい案内役を得て宿願が果たせ、たいそう嬉しかった。
小一時間ほど歩いて婦人之友社前で宮本さんとお別れして、また池袋に戻る。
折角なのでHMVの店で "Gramophone" 誌の最新号を購める。80歳になったロストロポーヴィチの特集。珍しい写真が収載され、それなりに読み応えがあった。ほかにニーナ・シュテンメ(s)のシュトラウス「四つの最後の歌」ほか(EMI)やハイフェッツの Decca 録音集成(Deutsche Grammophon)など。
歩き回ったので草臥れたが、宿酔いの朝方よりはよほど調子がよい。今夜は読書に精が出そうだ。久しぶりにカポーティでも再読しようか。