早く着きすぎたので、竹橋のパレスサイドビル地下の珈琲屋でモーニング・セットを注文。朝食を食べるなんて、一年に数えるほどしかない珍事である。焼きたてのかりかりトーストが旨い。
昨日に引き続き、十時から夕方まで美術館の収蔵庫で彫刻撮影の立ち会い。
明治から1960年代までの秀作を次々に撮っていく。朝倉文夫の「墓守」(1910)のようなオーソドックな堂々たる写実から、仲田定之助の「女の首」(1924)の人造人間めいた奇怪な造形、さらには戦後の純然たる抽象的な造形へ。背景を整え、丹念に照明を当てると、どれもこれも展示室では見えなかった「隠された相貌」が次々に現れてきて、「こんなにも良い作品だったのか」と驚かされることしきり。
とりわけ、陽成二(1898-1935)の「灯下抱擁」(1924)という未知の作品にひどく心惹かれる。
ロダンやクリムト、ムンクの「接吻」と同工異曲の「抱きあう男女」を表したブロンズ像なのだが、その背後には電柱めいた奇怪な角柱がそそり立ち、そこから街灯(ランプ)が吊り下がる、という不思議な作品。ヌードの人体にはドイツ表現派めいた大胆なデフォルメと省略が施され、リアルな街灯との取り合わせにドキッとさせられる。世紀末と超現実が入り混じったような、ちょっと類例のない作品なのだ。こういう規格外れのユニークな彫刻を産み出した大正という時代にも感嘆。
いずれ展覧会が始まったら、これ一点を観るためにも足を運ぶ価値がありそうだ。
ずっと室内にいたので、外で突風が吹き荒れていたのにまるで気づかず。帰りの電車のダイヤがひどく乱れていて、やっとそのことに気づかされた次第。どうやら今日の風が「春一番」だったようだ。