あれから三十年なのだという。ショーケンが若い板前を演じた「前略おふくろ様」(日本TV、1975-76、76-77)から、もうそんなにも時が流れたのだ。
今日から始まった連続ドラマ「拝啓、父上様」(フジTV)は、そっくりな題名といい、料亭という舞台設定といい、主役の青年の「手紙読み上げ調」ナレーションから、キャスティング(の一部)に到るまで、三十年前の物語とほとんど瓜二つ。これが旧作の焼き直しに終わるか、新たな傑作になるかは、現時点ではまだわからない。
倉本聰の脚本はさすがに巧い。神楽坂の老舗料亭「坂下」につどう人々の、微妙に絡まった人間模様や力関係を手際よく紹介し、次回以降に向けて布石を打ち、さまざまな伏線を張っていく。
坂道と路地の街、神楽坂の懐かしい風景が随所に挿入され、色街情緒をほのかに漂わせる。よく知っている界隈だけに嬉しい。
主役の板前を演じる二宮和也が、いい味を出している。ナイーヴで謙虚で真っ直ぐで。その気丈な母が高島礼子。もと神楽坂の芸者、今はここでバーを営む。二宮の父親が誰かはわからない。だから二宮の書く「拝啓、父親様…」は、出すあてのない手紙なのだ。
物静かな料亭の大女将は八千草薫。義理堅い板前頭は梅宮辰夫。何やら画策する若女将には岸本加世子。このあたりのキャスティングに抜かりはない。いかにも倉本好みの配役である。
さあ、これからどう展開していくか。毎週木曜日が楽しみだ。