朝の満員電車に乗るなんて、何年ぶりだろうか。
今日は家人と同時刻に家を出て、東京二十三区を横断し、三つの路線を乗り継いではるばる目的地の大学へ。
研究室の皆さんへの挨拶と自己紹介を済ませると、いよいよ待ちに待ったロシア絵本との対面だ。
全部で60冊ほどもある。これは凄い数だ。芦屋に残る吉原治良の旧蔵絵本が87冊、特種製紙の資料館pam(静岡・三島)が所蔵する原弘の旧蔵絵本が39冊。これから調査するグループは、この二大コレクションと優に肩を並べる分量なのである。しかも吉原や原のものと同様、それらの絵本が刊行された1930年代にリアルタイムで収集されたことがわかっており、その貴重さは計り知れない。
日本に残る戦前のロシア絵本をこれまでに200冊近く調査したので、小生はもう大抵のことには動じないつもりでいたが、ここには他のいかなるコレクションにも含まれない稀少なアイテムが何冊も含まれていて、これには少々たじろぐ。
時間をかけて一冊ずつメモをとりながら、ゆっくり慎重に頁を繰っていく。タイトルや作者名、刊行年度は勿論のこと、エディションの違い、書き込みの有無、入手径路を推定する手掛かりなど、さまざまな側面からチェックしていく。
朝の十時から開始して、昼食を挟んで夕方の四時半までかけて調査。ようやく全体の約半分に目を通したところで今日はタイムアップ。この続きはまた来週としよう。挨拶を終えて外へ出たら、もう日はとっぷり暮れていた。根をつめた作業だったのでさすがに草臥れたが、夕方の冷気に体を晒すと、その疲労感すらが心地よい。充実した一日だった。
なんとなく寄り道がしたくなり、吉祥寺で中古レコード屋を覗いたあと、西荻の古本屋「音羽館」へ。今回のことで仲介の労をとってくださった店主の広瀬さんに、謝意をこめて今日の報告をした。
そんなわけで、帰宅はえらく遅くなった。明日からは三日連続でパーシー・グレインジャー。今夜こそたっぷり熟睡しておきたいものだ。