(承前)
心配は杞憂に終わった。「プライベート・ライヴズ」は存分に楽しめる舞台だった。
まず円形舞台だが、登場人物が会話をしながら頻繁に移動することで、どの座席からもやりとりが「見える」ように演出が工夫されていたので、さしたる不満は生じなかった。おそらくどの位置に坐っても、自分の席がベストシートであると思えたのではないか。そのため、冒頭のシーンからしっとり落ち着いたムードが失われてしまったが、それはまあ致し方あるまい。
主役のアマンダとエリオットには、初演の例に倣って大物俳優がキャスティングされることが多く(昨年は水谷八重子と岡田真澄が演じた)、今回の二人はやや若すぎて役不足かと危惧されたが、どうしてどうして、なかなかの健闘ぶり。久世星佳は奔放で男勝りだが、どうにも憎めないアマンダを実感させたし、エリオットの葛山信吾は少々落ち着きに欠けるきらいはあったが、やんちゃなプレイボーイを生き生きと演じていた。
ヴィクター役の西川浩幸も巧い役者だ。コミカルな演技が決して下品にならず、いかにもお人良しの紳士然としたところが好感大(因みに初演ではローレンス・オリヴィエが演じた役だ)。エリオットに捨てられるシビルはちょっと損な役回りなのだが、久世星佳は溌剌と演技していて、惨めったらしさを感じさせない。
要するにこのクァルテットはとてもうまく噛み合っていて、間然とするところがない。丁々発止と交わされる台詞も流暢にこなれており、聴いていて実に心地がよい。カワード劇はこうでなくっちゃ!
飯島早苗の台本はおおむねオリジナルに忠実。ただし、なぜか時代設定を10年ずらして1940年代初頭とし、部分的に台詞を改め、それらしい話題を付加したりしているのだが(噂話にピカソの女性関係が出てくる)、まあ許容範囲内であろう。山田和也の演出も、各人物を彷彿とさせる造形という点では申し分なし。ただし、幕が進むにつれ、台詞劇というよりドタバタ劇に近づいてしまったのは惜しかった。もう少し動きを抑えて、言葉だけが炸裂するようにしたら完璧だったのに。
それにしても観劇は楽しい。小生も家人も心から堪能して家路についた。
就眠前に初演時の録音(ノエルとガーティの掛け合いと挿入歌を9分間収録)を聴いてみることにした。
さっき観た芝居とは何から何まで違う。エレガントでセンチメンタルな台詞回しに、ちょっとほろりとする。