五年前に離婚したエリオットとアマンダが思いがけず再会する。場所は海に面したドーヴィルの瀟洒なホテル。なんとも間の悪いことに、二人ともハネムーン旅行の最中なのだ。再婚相手とフランスのリゾート地までやって来て、全く同じ日、同じホテルに投宿し、隣り同士の部屋をとってしまったのだ。偶然の一致にもほどがある!
すべての揉めごとはここから始まった。二組のカップルはどうなってしまうのか…。
ノエル・カワード(1899‐1973)の「私生活 Private Lives」(1929)はよくできた芝居である。登場人物は元・夫婦の二人と、それぞれの再婚相手の四名だけ。後半パリの場面でメイドがちょっと姿をみせる以外は、ひたすらこの男女四人がしゃべり続け、見つめあったり睦みあったり口論したり取っ組み合ったりする。結局エリオットとアマンダが元の鞘に収まって幕となるのだが、全編がことごとく無駄話と痴話喧嘩の連続のようにみえて、男女の恋愛力学の機微を余すところなく描き出す。ロマンティックでシニカルな恋愛コメディの傑作なのだ。
初演(1930年、ロンドン、フィーニックス座)でエリオットとアマンダを演じたのは、ノエル・カワード自身と伝説の名女優ガートルード・ローレンス。「ガーティは輝いていた。最初に東京で着想したとき私が彼女に仮託したもののすべてが、舞台上に息づいていた。機転のきいた流暢な台詞回し、柔和と妖艶を併せもつロマンティックな資質、慌しくも脆い昂揚、白いモリヌーのドレスに至るまでが…」(カワードの回想より)。附言しておくと、カワードは1929年の世界一周航海の途上、しばらく東京に滞在し、帝国ホテルの一室でこの芝居の梗概を思いついたのだそうだ。
またもや前置きが長くなったが、今日は楽しみにしていた芝居見物の日。青山円形劇場にその「プライベート・ライヴズ」を観に行く(午後二時~)。珍しく家人と一緒だ。
キャスト&スタッフを書き写しておく。
エリオット/葛山信吾
アマンダ/久世星佳
ヴィクター/西川浩幸 (演劇集団キャラメルボックス)
シビル/ともさと 衣
ルイーズ(メイド)/詩梨
作/ノエル・カワード
台本/飯島早苗
演出/山田和也
美術/松井るみ 照明/高見和義 音響/高橋巖
衣裳/黒須はな子 ヘアメイク/河村陽子
この芝居は実は初めてでない。1999年6月にロンドンのロイヤル・ナショナル・シアター(リトルトン座)で観たことがあるし、有名な冒頭のバルコニーの再会シーンだけなら、シェリダン・モーリーのカワード・アンソロジー劇「ノーエルとガーティ」にも含まれていた(1991年、銀座セゾン劇場で上演されたときに観た)。
今回は若い役者たちの演技もさることながら、四方八方から鑑賞しうる円形劇場で、古典的な額縁舞台を前提にしたカワード劇がどのように演出されるか、という興味のほうが大きかった。正直言ってちょっと心配だったのだ。
(続きは明日)