1920‐30年代のロシア絵本について、もっと深く知りたいのだけれど、何か良い参考書はありますか、としばしば訊ねられる。
その道の専門家ではないので、あくまでも小生の目に触れ、知り得た範囲内で、いくつかの必読文献をご紹介しよう。刊行年代順に配列し、それぞれに簡単なコメントをつけたので、参考にしていただければ幸いである。
1)
原弘 「デザイナーの絵本」『グラフィック デザイン』1号、1959年11月
2)
原弘 「ソヴィエト絵本のある時代」『グラフィック デザイン』23号、1966年4月
*1)と2)は、1930年代にロシア絵本の魅力に触れ、39冊もの秀逸なコレクションを後世に伝えたデザイナー原弘(1903~1986)の貴重な証言。2)では16冊をカラー図版で紹介。
3)
田中かな子 「『子どもと本』の旅 訪ソメモから」『ソ連出版文化通信』12号、日ソ著作権センター、1975年5月
*同時代の児童文学の紹介・礼賛に終始していた日本の研究者のなかでただ一人、田中かな子(1931~1999)は早くから1920年代のロシア絵本の成果に目を向けていた。研究を深めようとした矢先、病に斃れたのが惜しまれる。
4)
瀬田貞二 『十二人の絵本作家たち』すばる書房、1976年
*「ペール・カストール」の章で、「ソ連の絵本からはじまる」と題して、マルシャーク&レーベジェフらの絵本刷新とその歴史的意義に触れる。上述の原弘コレクションを実見したうえでの記述である点が重要。
5)
──. В. Лебедев: 10 книжек для детей.Ленинград: Художник РСФСР, 1976.
*1920年代に刊行されたレーベジェフの絵本10点をほぼ完全な形で復刻・合本したもの。ソ連国内でも長らく忘却の彼方にあった絵本革命の成果を世に知らせた画期的な画集。印刷も当時のソ連にしてはすこぶる良好。
6)
Элла Ганкина. Художник в современной детской книге.Москва: Советский художник, 1977.
*ソ連時代ではほとんど唯一だったロシア絵本・児童書挿絵の通史。革命直後から現代(1970年代)までを豊富な図版入りでたどる。このガンキナ女史の労作は今なお必読文献としての価値を失わない。
7)
田中かな子 「優良絵本の復刻版によせて 一九二〇年代ソビエトの絵本」『窓』66号、ナウカ、1988年9月
*5)や70~80年代にソ連で刊行されたロシア絵本覆刻シリーズを紹介。ラドゥガ社に拠ったマルシャーク&レーベジェフの業績にも触れた優れたエッセイ。
と、ここまでがいわば1920‐30年代ロシア絵本研究の草創期。いわば暗闇のなかで手探りの時代である。当時の絵本の百花繚乱たる華やぎと輝きが明らかになるには、1990年代の到来(すなわちソ連邦の崩壊)を待たねばならない。
ちなみに、小生が東京・中野の古本市でロシア絵本の最初の一冊を手にしたのが1980年。初めてレニングラードを訪れたのはソ連時代最末期の1988年。まだロシア絵本の何たるかなど、まるきり理解できていなかった。
この続きは明日。