台風一過、抜けるような快晴である。かなり地上に舞い落ちたとはいえ、街路樹には色づいた木の葉がまだ残っていて、空の群青色と見事な対照を見せて輝きを放つ。
昨日ははるばる館林の美術館を再訪し、展覧会と講演をゆっくり愉しんだ。降りしきる雨のなかの往還はそれなりに心身に負担だったらしく、昨夜は泥のように熟睡。お陰で今朝の目覚めはいつになく爽やか。
今日は英国の作曲家ピーター・ウォーロック Peter Warlock(1894~1930)の誕生日。彼はフレデリック・ディーリアスに若いころから帰依し、先日邦訳が出たエリック・フェンビーの回想記 "Delius As I Knew Him" にも本名フィリップ・ヘセルタイン(Philip Heseltine)として何度も登場する。...
ただし、フェンビーが彼を見知った時期(1928年以降)、ウォーロックはディーリアスとは少し距離をおき、その作品に批判的だったから、彼が口にする言葉は歯に衣を着せぬ辛辣なものだ。
そうだ、せっかくだから、そのウォーロックがディーリアスの還暦祝いに贈った弦楽合奏のための《セレナード》(1923)を聴こう。
題して "Serenade to Frederick Delius on his 60th Birthday"。
惜しくも昨年亡くなったサー・ネヴィル・マリナー指揮によるアカデミー・オヴ・セント・マーティン=イン=ザ=フィールズの楚々とした名演で(→ここ)。
一聴して明らかなように、半音階的にたゆたう旋律や繰り返される転調はディーリアスそっくり。一種のパスティーシュ作品ともいえようが、もちろんこれは敬意と愛情の賜物なのである。
ウォーロックは英国歌曲の歴史に忘れがたい功績を残した作曲家であるが、社交的で快活な外観の下にいつも複雑な内面を隠し持っており、その一筋縄でいかない言動は、フェンビーの記述からも彷彿とする。
彼は1930年、三十六歳の若さで急死する。不測のガス事故と公表されたが、周囲の誰もが自殺の可能性を疑った。