ジャック・ドミー監督作品《ロシュフォールの恋人たち》が日本で封切られたのは1967年8月8日。今日はきっかり半世紀後にあたる。
埼玉の田舎に暮らす中学三年生に、東京の封切館まで出かける勇気はなかったが、ラヂオのベストテン番組からはその主題歌が頻繁に流れてきたから、心が浮き立つような旋律に耳がすっかり馴染んでしまった(
→これ)。
その当時、小生が同時代の外来文化に触れる唯一の窓はトランジスタ・ラヂオだった。人生で大切なことは、あらかたここから学んだ。
洋楽番組は優れた情報番組でもあり、これが《シェルブールの雨傘》に続いてドミー監督がミシェル・ルグランと組んだミュージカル第二作であること、フランスの港町を舞台に、夢のような恋物語が展開されること、カトリーヌ・ドヌーヴとともに主役を務めた実姉フランソワーズ・ドルレアックが不慮の交通事故に遭い、すでにこの世の人でないこと、などなど、周辺情報も耳にしていたはずだ。
それなのに映画を観に上京しなかった田舎者の臆病と怠慢を、今更のように悔やんでいる。同じように主題歌を耳にした《恋するガリア》も《ジョージー・ガール》も、結局そのまま観る機会を逸して今日に至る。
それから幾星霜、《ロシュフォールの恋人たち》をスクリーンで実見したのは遥か後年、1990年代に入ってからだ。
爾来これはわが生涯の映画の一本であり続けているのだが、もしも中学生のとき目にしていたら、この多幸感に満ち溢れたミュージカルに惑溺するあまり、画面の奥底に淀む微かな哀しみ(あえていうなら、幸福は映画にしか存在しないという諦念めいた感慨)を感じ取れなかったに違いない――そう考えて、遅すぎる出逢いを自ら慰めたものだ。
今日は日がな一日、《ロシュフォールの恋人たち》のサントラ盤を聴いて過ごそう。もちろん二枚組CDの「完全版」で。