ヴァイオリンとチェロといわれれば誰しもブラームスの二重協奏曲を思い出すだろうが、この二挺の楽器用の二重奏曲となると、はてさて誰の曲があっただろうか。暫し答えに窮する人が大半ではないか。
"Duos für Violine & Violincello -- Mira Wang - Jan Vogeler"
コダーイ:
ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 作品7 (1914)
ヘンデル(ヨハン・ハルヴォルセン編):
パッサカリア ~チェンバロ組曲 第七番
アイスラー:
ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲 (1924)
ラヴェル:
ヴァイオリンとチェロのためのソナタ (1922)
ヴァイオリン/王峥嵘(Wáng Zhēngróng/ Mira Wang)
チェロ/ヤン・フォーグラー1999年3、4月、ベルリン、ナレーパシュトラッセ、カンマームジークザール
Berlin Classics 0017032BC (1999)
→アルバム・カヴァーこれが問いに対する解答である。コダーイとラヴェルがヴァイオリンとチェロのための二重奏曲の名作を残している。一聴したところ作風は大いに異なるが、本CDのライナーノーツで筆者(Ulf Schlawinski)は、コダーイの先行作品をラヴェルは知っていたのではないか、との仮説を立てている。門外漢の小生にその当否はわからないが、ラヴェル作品は彼としてもかなり異色な作風を示し、そこにハンガリーの新進作曲家からの示唆を読み取ろうとする説はなかなか興味深い。
この二曲を組み合わせ、そこに同時代のハルヴォルセン、アイスラーの秘曲を組み合わせたところに、このディスクならではの妙味がある。
共演している王峥嵘(ワン・チョンロン/欧名
ミラ・ワン)と
ヤン・フォーグラーについては、二年ほど前サン=サーンスでの共演盤を聴いたとき簡略に紹介した(
→ここ)。実生活でも夫婦であるご両人のデュオはさすがに親和性と相互浸透性に富み、そのときにも書いたが鴛鴦さながら琴瑟相和す美質がある。
このCDはすでに入手が難しく、小生は中古盤を海外から取り寄せた。今夜はこれで就眠するには惜しいので、室内楽をもう一枚かけて静かな春の宵を愉しみたい。
"Fauré, Schumann: Piano Quintets"
シューマン:
ピアノ五重奏曲
フォーレ:
ピアノ五重奏曲 第二番
ヴァイオリン/ジェイムズ・エーネス、王峥嵘
ヴィオラ/清水直子
チェロ/ヤン・フォーグラー
ピアノ/ルイ・ロルティ2003年8月19~21日、ドレスデン、ルーカスキルヒェ
Sony 88875073042 (2003/2015)
→アルバム・カヴァーこれも入手難だったディスクだったが、近年やっと再発CDが出た(ただしライナーノーツや録音データを欠き、上記の録音日も王峥嵘のHPに拠った)。1993年にヤン・フォーゲラーが仲間たちと創設したドレスデン北郊のモーリッツブルグ城での「
モーリッツブルク音楽祭 Moritzburg Festival」(当初はモーリッツブルク室内楽音楽祭)十周年を期して、2003年度の参加者が参集して録音したもの。ただし音楽祭での実況ではなく、後日ドレスデンで組まれたセッションである。
今から考えると錚々たる名手たちのアンサンブルだが、主導権を握って自己顕示する者はおらず、そこがむしろ好もしい美点と感じられる演奏。とりわけシューマンにその感が強い。小生はこの曲を永く愛惜しているが、これは春風のように爽やかな、それでいて胸に染み入る佳演と聴いた。
もう一曲がフォーレ晩年の集大成と称すべき第二番の五重奏曲なのも嬉しい。多国籍の面々の演奏は求心性にやや乏しく、フォーレの神髄を極めているとは言えないだろうが、これを音楽への献身に貫かれた誠実な演奏と評することは許されよう。