まだ依頼原稿に呻吟している。今晩は徹夜になりそうだ。寝てはならぬ。何かこう、体内からヴァイタルな力が沸き起こるような音楽を聴きながら筆を進めたい。さっきは聴かなかったが、やはりプロコフィエフがいいのではないか。
"Prokofiev: Symphony No. 6 - Waltz Suite"
プロコフィエフ:
交響曲第六番 作品111*
円舞曲組曲 作品110**
■ 私たちが出逢ってから ~《戦争と平和》
■ 宮殿にて ~《シンデレラ》
■ メフィスト・ワルツ ~《レールモントフ》
■ お伽噺の終わり ~《シンデレラ》
■ 大晦日の舞踏会 ~《戦争と平和》
■ 幸福 ~《シンデレラ》
マリン・オールソップ指揮
サン・パウロ交響楽団2015年4月15~18日、20日*、24、25、27日**、サン・パウロ会堂
Naxos 8.573518 (2016)
→アルバム・カヴァー世評の高いオールソップ&サン・パウロによるプロコフィエフ交響曲全集の第五作目、残すところはあと《第七》(と《第四》原典版)のみである。《第六》は作曲家の最高傑作と小生が秘かに思い定めている交響曲だが、《第五》に較べて演奏機会は格段に尠く、録音も数えるほどしか存在しない。
第二次大戦から戦争直後にかけての不穏と苦衷の時代が刻印された音楽であり、初演者ムラヴィンスキーこのかた、禍々しく深刻な雰囲気や引き裂かれるような絶叫が強調されてきた。ロンドンで実演を聴いたヴラジーミル・ユロフスキーの秀演もその顰みに倣っていた。
しかしながら、これまでの諸作と同様、オールソップはあくまで公平無私な態度で臨み、努めて音楽的に処理する。細部のバランスや管弦楽法の工夫にこまやかな注意が払われ、あからさまな感情表出は意識的に排除されている。いや、だから駄目だというのではない、これはこれで実に筋の通った解釈であり、彼女の読譜能力の透徹に、聴きながら深く頷く箇所が頻出する。端倪すべからざるオールソップ!
フィルアップに同時期の(作品番号はひとつ違いの)《ワルツ組曲》が組み合わされたのも意表を突いた卓見である。
互いに類似した円舞曲ばかり六曲をオペラ、バレエ、映画音楽から抜き出して並べるという発想はいかにも異色だが、プロコフィエフらしいともいえよう。ややもすると退屈な羅列に堕しかねないところを、オールソップはそれぞれの楽曲が醸す気分を巧みに描き分け、一貫して愉しく聴かせる。さすがの力量というべきか。
この傑作の名演に励まされて、今晩の夜なべ仕事は大いに捗ることだろう。