一か月ほど間が空いてしまったが、すでに消滅した英国クラシカル・レーベルを偲ぶ連載の第十三回目、今回は「ニクサ Nixa」を紹介する。1950年に創設者ニクソンの苗字からこう命名された。英国では大手デッカに次いでLPレコードを発売し、ポップス界の歌姫ペトゥラ・クラークを専属とするなど、それなりに重きをなしたが、53年にはパイ(Pye)と合併。しばらくはレーベル名パイ=ニクサ(
→ロゴ)として存続し、モノーラル末期からステレオ初期にかけてエイドリアン・ボールト卿、ジョン・バルビローリ卿が指揮した数多くの名盤を輩出した。
その後パイは経営主体がいろいろ転変したのち1980年あえなく消滅、音源はしばらくPRT(Precision Records and Tapes)管理下にあり、一時は「ニクサ」の名のもと旧譜のCD覆刻もなされたものの、最終的にはEMIに吸収された。
ここで採り上げるのは、EMIが1990年代初頭に旧ニクサ=パイの音源をCD化し、「フィーニクサ Phoenixa」の名のもと数十枚どっと纏めて再発した新シリーズ。由緒あるニクサを不死鳥のように甦らせようという律義な試みだった。
"Elgar: Cello Concerto etc. - Navarra - Barbirolli"
エルガー:
エニグマ変奏曲*
序奏とアレグロ**
チェロ協奏曲***
悲歌***
チェロ/アンドレ・ナヴァラ***
ジョン・バルビローリ卿指揮
ハレ管弦楽団1956年6月21、23日*、12月11日****、12日**、57年5月21、22日***、
マンチェスター、フリー・トレード・ホール
EMI Phoenixa CDM 7 63955 2 (1991)
→アルバム・カヴァー《エレジー》以外EMIに再録音があり、チェロ協奏曲はデュ・プレとの共演盤と比較されて分が悪いのだが、エルガーらしい nobilmente な抒情はむしろこのナヴァラ盤に色濃いのではないか。この協奏曲に限ってはモノーラル収録なのが惜しい。
"Dvořák: Symphony No. 8 etc. - Barbirolli"
ドヴォジャーク:
交響曲 第八番*
スケルツォ・カプリッチョーゾ*
伝説 作品59 より 第四、第六、第七**
ジョン・バルビローリ卿指揮
ハレ管弦楽団1957年6月28日*、58年9月3日**、マンチェスター、フリー・トレード・ホール
EMI Phoenixa CDM 7 64193 2 (1992)
→アルバム・カヴァー専属アーティストが少なかったニクサ=パイでは、録音曲目に関して指揮者の希望が叶いやすかったそうな。バルビローリは常日頃ドヴォジャークを得意としたが、公式音源はこれと「第七」「第九」だけ。素朴で鄙びた掬すべき味わいがある。
"Britten: The Young Person's Guide to the Orchestra etc. - Boult"
ブリテン:
青少年のための管弦楽入門(パーセルの主題による変奏曲とフーガ)*
マティネ・ミュジカル
四つの海の間奏曲とパッサカリア ~《ピーター・グライムズ》
ソワレ・ミュジカル
エイドリアン・ボールト卿指揮(&語り*)
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団1956年8月15~31日、ウォルサムストウ・アセンブリー・ホール
EMI Phoenixa CDM 7 63777 2 (1990)
→アルバム・カヴァーボールト卿のブリテンは珍しいのではないか。モノーラル収録ながら、いずれも格調の高い名演であり、《青少年のための管弦楽入門》では若々しく張りのあるご当人のナレーションまで聴ける。この時期パイ・レーベルは米ウェストミンスターと提携してステレオ収録も試みており、近年ステレオ・ヴァージョンも発掘された。
"Janáček: Sinfonietta etc. - Mackerras"
ヤナーチェク:
シンフォニエッタ
《マクロプロス家の事件》前奏曲
《カーチャ・カバノヴァー》前奏曲
《死者の家から》前奏曲
《嫉妬》前奏曲(=元《イェヌーファ》序曲)
ヴァインベルガー:
ポルカとフーガ ~《笛吹きシュヴァンダ》
スメタナ:
《売られた花嫁》序曲
チャールズ・マッケラス卿指揮
プロ・アルテ管弦楽団1959年7月19~24日、ウォルサムストウ・アセンブリー・ホール
EMI Phoenixa CDM 7 63779 2 (1990)
→アルバム・カヴァー《シンフォニエッタ》冒頭ファンファーレが崩壊寸前で、これはどうなることかと案じたのだが、オーケストラは次第に復調し、掛け値なしに本物のヤナーチェク、すなわち強烈な生命力の発露が次から次へと繰り出される。弱冠三十三歳のマッケラスはすでに余人の追随を許さぬヤナーチェク指揮者だった。脱帽するほかない。
"Italian Opera -Lafayette - Lewis - Barbirolli"
ヴェルディ:
《運命の力》序曲*
プッチーニ:
二重唱「星は光りぬ」** ~《トスカ》
《マノン・レスコー》間奏曲
二重唱「貴方なのね、愛しいひと」** ~《マノン・レスコー》
マスカーニ:
《田舎の騎士道》間奏曲***
プッチーニ:
二重唱「ご気分は~なんと冷たい手」「私の名はミミ」** ~《ラ・ボエーム》
ヴェルディ:
《椿姫》第一幕の前奏曲****
《椿姫》第三幕の前奏曲****
プッチーニ:
二重唱「夜も更けた」「変わらぬ愛を」** ~《蝶々夫人》
ソプラノ/レノーラ・ラファイエット**
テノール/リチャード・ルイス**
ジョン・バルビローリ卿指揮
ハレ管弦楽団1957年6月11、12日*、58年8月21、22日**、9月4日***、54年1月2日****、マンチェスター、フリー・トレード・ホール
EMI Phoenixa CDM 7 64195 2 (1992)
→アルバム・カヴァー(まだ聴きかけ)