少し前からドビュッシー好きの間で《ペレアスとメリザンド》の前評判がいろいろ取沙汰されていた。今夏の南仏エクス=アン=プロヴァンス音楽祭で初演された新演出のことだ。早速その舞台映像がこの国のTVで観られるという。こんなに遅くまで夜更かししているのはそのためだ。
《ペレアスとメリザンド》
エクス=アン=プロヴァンス音楽祭
2016年7月7日
プロヴァンス大劇場
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作曲/クロード・ドビュッシー
原作・台本/モーリス・メーテルランク
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演出/ケイティ・ミッチェル
制作/マーティン・クリンプ
装置/リジー・クラチャン
衣裳/クロエ・ラムフォード
照明/ジェイムズ・ファーンコム
振付/ジョゼフ・W・オルフォード
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メリザンド/バーバラ・ハニガン
ゴロー/ロラン・ナウーリ
ペレアス/ステファーヌ・ドグー
アルケル/フランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒ
ジュヌヴィエーヴ/シルヴィ・ブリュネ=グルッポーゾ
イニョルド/クロエ・ブリオ
医師/トマス・ディア
メリザンド(分身)/ミア・シール・ヘイヴ
召使(黙役)/サラ・ノースグレイヴズ、サーシャ・プレージュ
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エサ=ペッカ・サロネン指揮
フィルハーモニア管弦楽団
ケープタウン歌劇場合唱団
前にも書いたことがあるが、《ペレアス》の舞台に接したのは1997年秋、パリのオペラ座でのロバート・ウィルソン新演出だけ。2000年春の再訪時にも観たが、これは瓜二つの舞台だったから数には入らない。とにかくその舞台の印象があまりにも強烈だったから、他の演出が受け付けられなくなった。森や古城や塔や噴水は全く登場せず、メリザンドの長い髪すら出てこないという、徹底的に抽象化を推し進めた究極の舞台だったからだ(
→わが追憶のペレアス)。
一世紀前の初演時から受け継がれてきた古風でオーソドックな舞台装置で一度は観てみたかった気もするが、世紀末の象徴主義の精神を受け継ぎつつ、大胆な抽象表現主義の手法で現代に蘇らせたウィルソンの力技に圧倒され(
→1997年の舞台、
→2012年の再演)、「これ以外の《ペレアス》はもう観なくともいい」とまで思い定めたのである。それが1997年のこと。標題に「十九年ぶり」と書いたのは、そうしたあくまでも個人的な体験に過ぎない。
今回こうして禁を冒して新演出の映像をこわごわ覗いたのは、噂に聞く前評判の喧しさもさることながら、ひょっとしてウィルソンの舞台を凌駕する、とまではいかないまでも、あれに比肩するような目覚ましい舞台が観られるのではないか、との微かな予感ゆえだった。その予感はある程度は的中した。これは確かに目を瞠るような《ペレアス》だ。
(まだ聴きかけ)