今日はフランスの名匠ジョルジュ・プレートル翁の九十二歳のお誕生日なのだそうだ。ヴィーヴ・ル・グラン・メートル・ジョルジュ!
"Poulenc: Œuvres orchestrales"
プーランク:
バレエ《牝鹿》*
牧歌(マルグリット・ロン讃)**
田園曲 ~《ジャンヌの扇》**
プロヴァンスの水夫 ~《カンプラの花綱》**
トルーヴィルの海水浴女 ~《エッフェル塔の花嫁花婿》
将軍の演説 ~《エッフェル塔の花嫁花婿》
クロード・ジェルヴェーズによる《フランス組曲》
バレエ《模範的動物》***
シンフォニエッタ
室内管弦楽のための二つの行進曲と間奏曲
田園の奏楽****
二台のピアノのための協奏曲*****
クラヴサン/エメ・ヴァン・ド・ヴィール****
ピアノ/フランシス・プーランク+ジャック・フェヴリエ*****
ジョルジュ・プレートル指揮
パリ管弦楽団
パリ音楽院管弦楽団*** **** *****
フィルハーモニア管弦楽団* **
アンブロジアン・シンガーズ*1962年4月**** *****、1965年5月***、1968年1、2月、
パリ、サル・ヴァグラム
1980年11月、ロンドン、アビー・ロード・ステュディオズ* **
EMI France CZS 7 62690 2 (2CDs, 1990)
→アルバム・カヴァープレートルといえばプーランクといつも鸚鵡返しに答えるのでは、広大なレペルトワールを擁する老巨匠に礼を失するかもしれないが、それでもここまで天下一品の名演揃いなのだもの、やっぱり聴きたくなる。
《牝鹿》だけが非フランスのオーケストラ。前からそれが心残りだった。彼には若き日にパリ音楽院管弦楽団を振ってこのバレエの組曲版を収録した超名演があり、それに比べると些か聴き劣りする。そう思っていたのだが、久しぶりに聴き直してみたら、これはこれで神経の行き届いた秀演ではないか。
一旦はそう信じたのだが、少し先でパリ管弦楽団を指揮した《エッフェル塔の花嫁花婿》からの二曲や《フランス組曲》を聴くに及んで、やっぱりプーランクはフランスの楽団でなきゃ駄目だと痛感。弾けるような音楽の自発性がまるで違う。天と地ほどの隔たりなのだ。二枚目のCDで《シンフォニエッタ》が始まると、これこそプレートルがパリの楽団と組んだときにしか起こり得ない奇蹟を目の当たりにする思いがした。プレートル=パリ管弦楽団のプーランクこそ天下一品である。
1970年春にパリ管弦楽団を率いて来日したプレートルを、新宿の東京厚生年金会館の楽屋まで追いかけてサインをねだったことがある。高校三年生の頃だからまさしく若気の至りだ。
小生が恐る恐る差し出したプーランクの《牝鹿》組曲ほか(パリ音楽院管弦楽団)のLP(
→アルバム・カヴァー)を一瞥すると、プレートルの目にちらり「
なんだ、またこのアルバムかよ。俺はプーランクばかりのスペシャリストぢゃないんだぜ」という不興の色が煌いたような気がした。勿論それはほんの一瞬のことで、彼はすぐ精悍な笑顔に戻ると、ジャケットのマリー・ローランサンの装画の余白に、すらすらと署名してくれた。「1970年4月25日、Tokio」という日付とともに。