いよいよ師走である。といっても今日の暖かさはとても冬の始まりとは思えず(東京の最高気温は摂氏十六度)、陽気に誘われるような塩梅で、家人に同伴して東京方面行の電車に乗った。
まず訪れたのは浜松町にある
芝離宮(正式名称は旧芝離宮恩賜庭園)。東京都が管轄する九つの庭園のうち、ここだけ未訪問だった(他の八つは浜離宮恩賜庭園/小石川後楽園/六義園/向島百花園/清澄庭園/旧古河庭園/旧岩崎邸庭園/殿ヶ谷戸庭園)。いつもJRやモノレールの車窓から見て「いつか訪れねば」と思いつつ、なんとなく機会が巡ってこなかった。雲ひとつない日本晴れに恵まれ、池を巡る本格的な回遊式庭園になんの不満もないのだが、近傍の浜離宮に較べるとここは規模も小さく、何もかもが小ぢんまりして魅力に欠ける。どちらを眺めても背後に興醒めな現代の眺望が見えてしまうのも難点。寛げる茶店がないのも悲しい。そういう次第で、ここはいろいろ期待外れの庭園だった。
折角ここまで来たのに、と些か不満げな家人を宥めすかしつつ、足を海岸の方角へと向け
竹芝桟橋へ。ここへ足を運ぶのは三十数年前、編集プロダクションの社員旅行で三宅島へ船出して以来だと思う。そのときの殺風景な船着場の佇まいとはうって変わって、界隈は小奇麗になって全く別の場所の印象である。洒落た円形広場が整備されていて、切符売場や待合室のほか、伊豆七島の名産品を並べたアンテナショップ兼カフェまで併設されている。
ちょうど昼時なのでここでランチ。「東京愛らんど」という店名は口にするのも恥ずかしいが、七島名産の魚を使ったメニューはそれなりに工夫されており、家人は
八丈島ムロアジバーガー、小生は
味噌漬けメダイのフィッシュ&チップスを食す。どちらもやや味付けが濃いものの、まずまず美味しく完食。このほか家人は八丈島の塩羊羹だの明日葉風味(!)のチョコレートだのを土産に買い込んだ。
腹拵えして元気が出たので、ここから海岸線沿いに
日の出桟橋へ、さらに
浦島橋を渡って芝浦界隈を散策。かつて1980年代後半の一時期、家人はこの一郭の会社に奉職しており、すぐ近所に「インクスティック芝浦」もあったというのだが、三十年の時を隔てて風景は一変してしまい、どこがどこやら全く判然としない。半時間ほど痕跡を探し回ったが徒労に終わった。そもそも最先端のディスコやライヴハウスがかつて存在したとは信じがたい寂れようなのだ。
ここが今日の散歩の終着点では呆気なさすぎるので、もう少し探訪を進めようと衆議一決、JRの田町と浜松町の中間あたりでガードを潜り、第一京浜を越えてあてどなく散策を続けた。もちろん足を踏み入れるのは初めてだ。
だいたいの方向を定めたら、あとは大通りの喧噪を避けてなるべく裏道を選んで歩く。芝二丁目から芝三丁目へと歩を進めると、古びた木造家屋やモルタル塗りの二階建が散在する一郭に迷い込んだ。空地や駐車場になったり、マンションが建ったりしているが、少し前までは一戸建の古い民家がぎっしり蝟集していたとおぼしい。僅かに残る裏路地の風情は古き良き東京を偲ばせるが、こうした昭和時代の生活遺構はもはや風前の灯だから、次に再訪する際は恐らくもう残されていないだろう。そう思うと愛おしさが一入になる。
裏路地を抜けて国道一号線(桜田通り)に出たら視界が一気に開け、ほぼ正面に
東京タワーが青空を背にくっきり聳え立つ。
途端に家人の足取りが軽くなる。どうやら今日の散策の真の目的地はここと前もって思い定めていたらしく、そのまま赤羽橋を通過し芝公園に入ると、迷わずタワーの方角を足早に目指す。近づくにつれ塔の四脚がみるみる巨大になっていき、裏手の豆腐料理店の脇の坂を上るとタワー入口に到着。どうしても展望台に昇るのだという。その前に脇の休憩所で水分を補給し煙草を一服ふかす。
(まだ書きかけ)