あと数分で四月が過ぎ去ってしまう。だからどうという理屈もないのだが、なんとなく今月はリヒテルを聴きながら終えたい気がしてきた。なので、帰路の道すがら立ち寄った御茶ノ水の中古店で拾い上げたこの一枚を。
"Mozart: Piano Concertos Nos. 22 & 27 etc./ Richter"
モーツァルト:
ピアノ協奏曲 第二十二番 (カデンツァ/ブリテン)*
ピアノ協奏曲 第二十七番**
アダージョとフーガ K546***
ピアノ/スヴャトスラフ・リヒテル* **
ベンジャミン・ブリテン指揮
イギリス室内管弦楽団1965年6月16日、サフォーク、ブライスバラ教会(オールドバラ音楽祭実況)**
1967年6月13日、スネイプ・モールティングズ(オールドバラ音楽祭実況)* ***
BBC Legends BBCL 4206-2 (2007)
→アルバム・カヴァーリヒテルが弾くモーツァルトの協奏曲といえば、二十二番と二十七番(あとは二十番だろうか)。1970年に初来日した際もわざわざ盟友ルドルフ・バルシャイを帯同し、この二曲を披露した。二十三番は金輪際やらないと公言していた。「
あれはマリヤ・ユージナが弾いてしまったから」というのが当人の言い分だった。
このディスクに聴く二曲はそれぞれ1967、65年に英国オールドバラで音楽祭の主宰者ベンジャミン・ブリテンと共演した歴史的音源である。幸いにもBBCの手で良好なステレオ録音が残された。かつて別々のCDで出ていたものを、新たに組み直した再発盤なので買い控えていたのだが、わがリヒテル熱の再燃を奇貨として聴き直すことにした次第である。
いや~恐ろしいほどの秀演なのだ、これが。実況なので演奏上の傷は免れず、二十七番の冒頭には心臓が止まるようなアクシデントが待ち受けているのだが、それすら生演奏ならではの感興の一部として愉しむことができる。
リヒテルの独奏の玲瓏たる美しさは申すまでもないが、ここでまず傾聴すべきはブリテンの伴奏指揮の比類ない素晴らしさだろう。この雄弁に語りかけるような、優しく、時に寂しく微笑みかけるモーツァルトはどうだ。
オールドバラでのリハーサル中、二人は殆ど言葉を交わさなかったという。「
ブリテンとリヒテルの間には語り合う共通言語がなかったのだ。音楽以外には何も」(その場に居合わせたBBCのリチャード・バットの回想)。