四月は花見に浮かれているうちに終わってしまう。反省して久しぶりに大学の付属図書館で音楽史の調べもの。そろそろ勉強のまとめに入るべき頃合だろう。そうなると些か気持ちが逸る。思いのほかスムースに進捗したので今日は早めに切り上げ、ふと思い立って地下鉄で神保町へ。地上へ出て至近の「岩波ブックセンター 信山社」で新刊をあれこれ物色。せっかくなので岩波文庫を何かと思うが、食指が動くものがなく、結局ちくま学芸文庫の棚から一冊。
リヒテルは語る
ユーリー・ボリソフ
宮澤淳一 訳
ちくま学芸文庫
筑摩書房
2014 →表紙カヴァー2003年に単行本で出た際に貪るように読み耽った名著。とにかくリヒテルの語りが破天荒で奇想天外、その面白さといったら無類である。ソ連邦で生きた偉大なるインテリゲンツィヤの肉声がじかに聴こえてくる読書体験。
昨年これが廉価版になったのは承知していたが、文庫化に際して未収録の一章が新たに加わったというので、買い直すことにしたのである。今年はリヒテル生誕百周年の年でもあることだし。
未読の方はこれを機に是非とも。とにかく想像を絶した展開と内容だし、宮澤さんの訳文は例によって周到な仕上がり、細部をよく調べ上げていて頭が下がる。
そのあと指呼の距離にある音楽書専門の古書肆「古賀書店」で楽譜の棚を物色。戦前の橋本國彦の歌曲三冊が綺麗な状態で出ていたので迷わず手にした。《親芋子芋》と《幌馬車》と《青い鳥》とだ。前々から少しずつ集めてきた橋本の楽譜もいつの間にか十三冊になった。
帰宅してから、手許にある橋本の楽譜を番号順に並べてみた。
共益歌曲樂譜 橋本國彦作曲
第一編/牡丹 西條八十作詩 (表紙絵/大貫松三)
第二編/巴里の雪 西條八十作詩 (表紙絵/大貫松三)
第三編/親芋子芋 濱田廣介作詩 (表紙絵/大貫松三)
第四編/田植唄 林 柳波作詩 (表紙絵/大貫松三)
第六編/薊の花 北原白秋作詩 (表紙絵/周 襄吉)
第八編/お菓子と娘 西條八十作詩 (表紙絵/周 襄吉)
第九編/垣のこわれ 北原白秋作詩 (表紙絵/大貫松三)
第十編/斑猫 深尾須磨子作詩 (表紙絵/周 襄吉)
第十一編/黴 深尾須磨子作詩 (表紙絵/周 襄吉)
第十三編/お六娘 林 柳波作詩 (表紙絵/大貫松三?)
第十五編/オ菓子ノ家 西條八十作詩 (表紙絵/周 襄吉?)
第**編/幌馬車 西條八十作詩 (表紙絵/大貫松三)
第**編/青い鳥 西條八十作詩 (表紙絵/大貫松三)
共益商社書店
1929(昭和四)~1934(昭和九)年
ほぼ同時代に恩地孝四郎の装幀でどっと出た山田耕筰の歌曲楽譜(日本交響樂協會/日響樂譜)ほどではないが、この橋本國彦の楽譜シリーズも表紙の装画がそこそこチャーミング。どれも思わず手に取りたくなる。
これら橋本作品は戦前の日本歌曲の精華である。幸いにもその多くが今もCDで聴ける。いずれ楽譜を繙きながらこれらの歌曲にじっくり耳を傾けよう。
《舞 橋本國彦歌曲集/藍川由美》
橋本國彦:
01. なやましき晩夏の日に
02. 牡丹
03. 薊の花
04. お菓子と娘
05. 黴 (かび)
06. 斑猫 (はんみょう)
07. 舞
08. 富士山見たら
09. 旅役者
10. 百姓唄
11. 親芋子芋
12. 田植唄
13. スキーの歌
14. 母の歌
15. 国民協和の歌
16. 勝ちぬく僕等少國民
17. かたみの手風琴
18. 朝はどこから
19. 乙女雲
20. アカシアの花
ソプラノ/藍川由美
ピアノ/花岡千春
1997年7月9~10日、埼玉県松伏町、田園ホール・エローラ
カメラータ 30CM-532 (1998)
→アルバム・カヴァー