病が膏肓の奥深く巣食って久しい「
四つの最後の歌」完全蒐集プロジェクト、この一か月ほどで更に四点が新たに加わったので、簡略に報告をしたためておこう。
"Wesendonck-Lieder / Vier letzte Lieder"
ワーグナー:
ヴェーゼンドンク歌曲集
シュトラウス:
四つの最後の歌
ソプラノ/レギーナ・クレッパー Regina Klepper
ゲルハルト・ファックラー指揮
新シュヴァーベン交響楽団2009年(?)、キルヒハイム(?)
Tobi Music No number (CD-R, 2009)
→アルバム・カヴァーレギーナ・クレッパーはミュンヘンなどの歌劇場で活躍するリリコ・ソプラノだそうで、《魔笛》のパミーナ、《カルメン》のミカエラ、《リゴレット》のジルダ、《薔薇の騎士》のゾフィーなどを当たり役とする由。すでに二十点ほどのCDがあるというが小生は初めて聴く。やや軽めの声で歌われるシュトラウスは好むところだが、共演楽団に華がないのが難点。もともと配信用の音源らしく、本CDはリーフレットに解説文も録音データも一切なく、盤面にも演奏家名を "Various Artists" と記すなど、欠陥商品の誹りを免れまい。かかるディスクが罷り通るとは世も末である。
"Leaving Home: An Introduction to 20th-Century Music 1"
ストラヴィンスキー: 春の祭典(抜粋)
ヴァレーズ: イオニザシオン(抜粋)
ブーレーズ: ブルーノ・マデルナ追悼のリテュエル(抜粋)
マーラー: 大地の歌(抜粋)
メシアン: トゥランガリラ交響曲(抜粋)
バルトーク: 青髭公の城(抜粋)
バルトーク: 弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽(抜粋)
ショスタコーヴィチ: 交響曲 第十四番(抜粋)
ルトスワフスキ: 交響曲 第三番(抜粋)
ルトスワフスキ: ヴェネツィアの遊戯(抜粋)
ストラヴィンスキー: アゴン(抜粋)
シェーンベルク: ワルシャワの生き残り(抜粋)
シュトラウス: 夕映えに ~四つの最後の歌*
ソプラノ/アマンダ・ルークロフト Amanda Roocroft*
サイモン・ラトル卿指揮
バーミンガム市交響楽団1995年7、8月、バーミンガム、シンフォニー・ホール
1986年1、2月、バーミンガム、ウォリック大学アーツ・センター(メシアン)
EMI 5 66136 2 (1996)
→アルバム・カヴァ―20世紀の終焉に際し、百年の音楽の歩みを回顧する英国チャンネル4のTV番組シリーズ『故郷を離れて』のサウンドトラック。同番組で構成・指揮・司会を務めたのがバーミンガムのシェフ時代の
サイモン・ラトルだった。音源はメシアンの「トゥランガリラ」以外すべて新録音からなり、そのなかで「四つの最後の歌」が採り上げられた(ただし終曲のみ)。とりたてて特色に乏しい歌唱・演奏だが、ラトルには今のところ他に同歌曲集の録音が存在せず、その意味で稀少価値はある。
"Les 《Raretés》 d'Eugen Jochum"
ラヴェル:
《ダフニスとクロエ》第二組曲*
シュトラウス:
四つの最後の歌**
ヨハン・シュトラウス二世:
《蝙蝠》序曲***
ヘンデル:
《アグリッピーナ》序曲****
モーツァルト:
ロンド K382*****
ソプラノ/アンネリース・クッパー Annelies Kupper**
ピアノ/エトヴィン・フィッシャー*****
オイゲン・ヨッフム指揮
バイエルン放送交響楽団1950年10月27日*、12月1日**、1951年1月19日***、1954年3月12日****、6月26日*****、ミュンヘン(すべて実況)
Tahra Tah 720 (2011)
→アルバム・カヴァー長きにわたるキャリアにもかかわらず
オイゲン・ヨッフムには「四つの最後の歌」の録音は正規・実況を問わず全く知られていなかったので、このアンソロジー(すべて初出レパートリー)登場は値千金である。しかもフラグスタート=フルトヴェングラーによるロンドンでの世界初演から僅か半年後、現存する史上二つ目の音源なのだから、その貴重さは比類がない。
アンネリース・クッパー(1906~1987)はバイエルン州立歌劇場で永く活躍した名ソプラノで、オルフの《アフロディテの勝利》《カトゥリ・カルミナ》など、ヨッフムとの共演盤も知られる。楽譜の出版からまだ日の浅い時期の収録にもかかわらず、クッパーもヨッフムも自信に満ちており、解釈が堂々と揺るぎがないのに驚嘆。本アルバムでの収録順は刊行譜と同じく「春」→「九月」→「眠りに就こうとして」→「夕映えに」だが、曲間に無音部が挿入されてしまったため、当日この曲順で本当に奏されたか否かははっきりしない。
"Erika Sunnegårdh"
ベートーヴェン:
人でなし、何をしようというの ~《フィデリオ》
ワーグナー:
厳かなこの広間 ~《タンホイザー》
聖母よ、聞き届け給え ~《タンホイザー》
古き時代から ~《さまよえるオランダ人》*
おお、そなたはその口に接吻を許さなかった ~《サロメ》**
シュトラウス:
四つの最後の歌
ソプラノ/エリカ・スンネゴード
バリトン/アルベルト・ドーメン*
テノール/トマス・スンネゴード、メゾソプラノ/エリカ・ストレム・メイリング**
ヴィル・フンブルク指揮
マルメ交響楽団2013年春/夏(?)、マルメ
自主製作盤 No number (2013)
→アルバム・カヴァー北欧の難読人名にはいつも悩まされるのだが、彼女の苗字は「スンネゴード」と表記するのがどうやら原音に近いようだ(出演映像で当人がそう名乗る)。1966年生まれの
エリカ・スンネゴードはオペラ・デビューが2004年というから遅咲きのソプラノである。両親共に声楽家だったにもかかわらず舞踊家を目指して渡米するが芽が出ず、ウェイトレスや旅行ガイドなどで糊口を凌いだ。たまたま一時帰国時マルメ歌劇場のオーディションに合格し、《トゥーランドット》で初舞台を踏んだ。二年後の2006年、メトロポリタン歌劇場の《フィデリオ》公演時に急病のカリータ・マッティラの代役としてレオノーレを歌ったのを機に国際的な活躍が始まる。日本でも2011年秋に新国立劇場で《サロメ》の主役を演じ歌ったそうな(ただし「ズンネガルト」という呼称で)。昨今の弱体なレコード業界はそんな「薹の立ったシンデレラ」になかなか録音の機会を与えなかったため、痺れをきらした彼女は自ら果敢にネット上で出資者を募り(
→そのHP)、セルフ・プロデュースによるソロ・デビュー・アルバムを製作した。それが本CDである。メト・デビューの演目《フィデリオ》のアリアに始まり、当たり役のエルザやサロメの名場面、「四つの最後の歌」に到る曲目選定には彼女の思い入れが滲み出ており、いずれ劣らず力の籠もった名唱揃いだ。デザイン的にも行き届いた、目にも美しいアルバム。
クラウドファウンディングの手法で世に出た史上初の「四つの最後の歌」として銘記されよう。
■ 参考記事
→四つの最後の歌 ディスコグラフィ =1 (1950~1970)
→四つの最後の歌 ディスコグラフィ =2 (1971~1990)
→四つの最後の歌 ディスコグラフィ =3 (1991~2000)
→四つの最後の歌 ディスコグラフィ =4 (2001~2010)
→四つの最後の歌 ディスコグラフィ =5 (2011~ )