昨晩に引き続き、バレエ・シュエドワ(スウェーデン・バレエ団)に因んだバレエ音楽を。二十年間も存続したバレエ・リュスとは異なり、こちらのバレエ団が委嘱・初演したバレエで、今日もなお伝承される演目はほんの僅かしかない。
話を音楽に限っても、辛うじて耳にできるのは、フランス六人組(のうち五人)の合作バレエ《
エッフェル塔の花嫁花婿》(1921)、ミヨーの《
男とその欲望》(1921)と《
世界の創造》(1923)、オネゲルの《
スケーティング・リンク》(1922)、それからサティ《
本日休演(ルラーシュ)》とその幕間の映画音楽(共に1924)位だろうか。
そのなかで最も人口に膾炙したミヨーの《世界の創造》を聴こう。少しは暑さ凌ぎになるかもしれない。
"Milhaud / Le Bœuf sur le toit, La Création du monde / Nagano"
ミヨー:
バレエ《屋根の上の牡牛》
バレエ《世界の創造》
ハープ協奏曲*
ハープ/フレデリック・カンブルラン*
ケント・ナガノ指揮
リヨン歌劇場管弦楽団1992年1月20~25日、リヨン、旧音楽院ホール
Erato - Musifrance 2292-45820-2 (1992)
→アルバム・カヴァーアフリカの創世神話に触発されて詩人
ブレーズ・サンドラールが書いたユニークな天地開闢の物語を台本とし、
ダリユス・ミヨーが打楽器を多用したジャジーな音楽をつけ、
フェルナン・レジェがアフリカ美術からの強い影響下で世にも斬新な舞台美術を手がけた(
→舞台写真、
→これ、
→これ、
→これ)。
この舞台はちょっと観てみたかった。バレエ・リュスが開拓しなかった新世界が眼前に開ける思いがしたかもしれない。初演は1923年10月25日、パリのシャンゼリゼ劇場。これは前項で紹介したコール・ポーター&ジェラルド・マーフィの《ウィズイン・ザ・クオタ》初演と奇しくも同じ日である。指揮はヴラジーミル・ゴルシュマン。
たちまち忘却の淵に沈んだ《ウィズイン・ザ・クオタ》と異なり、《世界の創造》の音楽はミヨーの代表的な管弦楽曲として今なお演奏会で採り上げられ、往時のミヨー指揮の自作自演を嚆矢として音盤も数知れない。
このケント・ナガノ盤はなかでも生きたリズム感と絶妙な音色配合において出色の名演奏ではなかろうか。同じくバレエ音楽でミヨーの出世作となった《屋根の上の牡牛》ともども推奨に値しよう。併録されたハープ協奏曲は滅多に聴く機会のない曲(1953年の作、作品番号は323)だが鄙びた情緒をたたえた佳曲。