せっかく桜が満開だというのに昨日は篠つく無情の雨。東京の木々はもうあらかた花びらを散らしてしまったろうか。窓の外を眺めながら「花に嵐の喩えもあるさ」と口ずさんだら、傍らで「春に三日の晴れ間なし」と応ずる声あり。
傘をさして近所の八百屋に出向いたら、新じゃがを筆頭に、芹、楤芽(たらのめ)、独活(うど)、春菊、菜の花、青硬菜花(ちんげんなばな)など、いかにも春らしい野菜がずらり出揃って嬉しくなる。これまでなんとなく敬遠してきた蕗の薹(ふきのとう)にふと目を留め手を伸ばす。そういえば先日たまたま家人の実家の近所を散策したとき、路傍にいくらでも自生しているのを目にしたっけ。
いざ買い求めてはみたものの、調理法がわからない。すぐに思いつくのは天麩羅だが、これはちと厄介だし、油が無駄になる。ネット上でいろいろ調べると味噌汁の具に最適だそうで、「ただし、沸騰させると香りが失せるので要注意」とある。
透明なパックのなかには大き目の蕗の薹が七つ。そのうち二つだけ水洗いして大雑把に包丁で切り分けると、苦みを含んだ芳香が仄かに漂う。鍋に湯を沸かし、小ぶりの煮干でだしを取ったら弱火にし、蕗の薹を放り込むと即座に火を止め、手早く味噌を溶かし込んだ。
初めてなので恐る恐る味見したら、結構いけるではないか。野趣に満ちたほろ苦さが口いっぱいに広がる。春の野辺を思い起こさせる素朴な味と香りである。ただし相当に癖があるので、人によって好悪は分かれるかも知れない。家人は口に含むなり「苦い・・・」と云ったきり、あとが続かない。結局のところ小生が全部を平らげる羽目になってしまった。どうにも芳しくない結果である。
パックに三つ残った蕗の薹はどうしよう。微塵に刻んで味噌に混ぜ込んで「蕗味噌」にしても美味しいらしい。尤もこれとても、えぐい苦さがどうにも家人の嗜好には合わないと思う。これだから不馴れな食材は難しい。
そういう訳で昨日の轍を踏むまいと、今日の昼食は「菜の花と生シラスと松の実のスパゲッティ」にしよう。これだったら味は保証済、成功は間違いない。最後に少しだけ醤油をかけ回すと、ほんのり香ばしくて美味いのなんの。